「みんな!おっはよっ!」
ちゅっ、と音を立たせて友人たちへ可愛らしく投げキッス。投げられた友人らはそれをキャッチしてもぐもぐと食べたりバレーボールのごとく叩き落としたり、各々反応を返してくれた。それがわたしの一日のはじまり。
「んーむあっ」
「…今のなん?」
「イタリー系熟女のセクシー投げキッス」
「あかんわ大人のエロスが足りひん!もっとこうねっとりとやな…」
授業中や休み時間、最近はみんなに投げキッスをするのがマイブーム。ぶりっこな投げキッス、爽やかな投げキッス、エロい投げキッス。なんでもいいからとにかくそれになりきって全力で投げキッス。それを受けた相手はキャッチして遠くに投げたりなんたりしてくれる。みんなちゃんと相手してくれるから楽しくて仕方ない。しょうもないけど、まあ箸が転がってもおもしろいお年頃なのだ。
「寂しいやっちゃ」
そんなわけで毎日楽しく女子同士でゲラゲラ笑ってるなか、呆れた様な声が割って入ってきた。振り向くとそこには頬杖ついてこっちを見る忍足と爽やかに佇む白石がいた。
「どーいう意味だコラ」
「彼氏のひとりでも作ってそいつにせえっちゅー話や」
「…貴様呪いの投げキッスくれてやろうか」
「浪速のスピードスターが華麗に避けたるわ!」
わたしの攻撃に対しすごい勢いで避けるふりをする忍足。なんやかんや言ってやつも同類だからそれがまた楽しくてしょうがない。
「くらえ!最終必殺奥義!」
「…ハッ!お前の力はこんなもんか!」
「愚かな、それは触れれば鉄をも腐らす猛毒だ!」
「なっ…!ぐあああ白石助けてくれええ…!」
わたしのそれをキャッチした忍足は猛毒に苦しみながら私たちを微笑み見ていた白石に助けを求めた。それを見た白石もまたノリがいいもんだからまかせろ!なんて言ってわたしの猛毒をばくりと食べた。
「んんーっ、絶頂!」
「なに…!あれを食べて何故生きていられる!」
「すまんなあ、俺は毒のスペシャリスト。あの程度の毒などチョコ食べとるようなもんや!」
「そ、んな…」
「さあ遊びは終いや。くらえ絶頂投げキッス!」
「ああん!エクスタ、シー…!」
白石の悩殺投げキッスをくらい地に伏したところでチャイムがなった。休み時間がおわりみんな席に戻る。わたしも起き上がりいそいそと席に戻った。ああ、今日も楽しいな。
「今日のおもろかったわ、迫真の演技やったな」
「あ、白石おつかれー」
終礼もおわりさあ帰ろうとするなか白石に声を掛けられた。普段はあまり話さないけど、まあ今日は絡みあったしなあ、そう思いつつ適当に言葉を返した。
「今から部活?」
「せやで」
「じゃあ応援の投げチッスっ」
オカマの人みたいな声でぶちゅっとキスを投げつけた。ここは気持ち悪がってはたき落としてくれる。と思ったらキャッチしてもぐもぐと食べられた。
「おおきに!めっちゃ力湧いてきたでー!」
「お、おう!がんばってねんっ」
ほんとうに元気がよくなった白石に若干気圧されつつどうにかカマキャラでそう言えば白石はキラキラした笑顔で「おん!ほなまた明日!」って手を振りながら走り去った。爽やかだなあと思いつつわたしは彼が走っていった方をずっと見つめていた。
それ以来白石とは仲良くなっていった。
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