匂いフェチ | ナノ
「覗きとはまた変態に磨きがかかったなあ」
「…ごめん」
「ウソ。ええよ、俺のこと見てたなら」
「は…?」
「まあ大方財前に引っ張られてきたんやろうしな」

苦笑する白石はわたしの目尻をするりと撫でた。俯いていたわたしはその弾みで顔を上げる。ばちり、白石と目があった。

「やっと、目ぇあったな」
「…っ」
「赤なってる。泣いてたん?」
「…知らない」
「泣いた理由が俺やったらええなあ」

切なそうに微笑む白石の目も少しだけ赤くなっていた。さっき泣いてたから、だよね。

「白石こそ、なんで泣いてたの」
「…あの子の匂い嗅いだらな、自分のこと思い出してん。しゃべったら声思い出して、触れたら抱きしめたときの感触思い出した」
「…なんで」
「好きやから」
「匂いだけでしょ」
「せやなあ、あとは気ぃ強いくせに興奮するとめっちゃ素直になるとこやろ。それに普通の顔も声も飾り気ゼロな笑顔も。どれも好きやなあ」
「…悪かったわね、可愛くなくて」
「俺はめっちゃくちゃ全身で好きやってアピールしてたんやで。勇気だして口でも言うた。でも簡単にはね除けられてしまいには勘違いや言われて置いてかれた」

どんだけ辛かったかしらんやろ。そう言う白石は微笑んだまま泣いていた。頬を滑る涙はとてもきれいで、なんだか悔しい。

「だってわたしじゃ、白石にはつり合わない」
「勝手に決めんといて。誰を選ぶかは俺の自由や」
「…わたし変態だよ」
「今さら。そこも好きや」

もうなにも言い返せない。わたしと同じ気持ちだと、とうとう理解してしまった。
えもいわれぬ感情がむくむくと膨れ上がってたまらず白石に抱きついた。いうほど汗の匂いなんてしないじゃないか。むしろ石鹸みたいな、落ち着く匂いだ。

「自分にはまだ全然足らんやろうな」
「うん、石鹸っぽい匂い」
「…いや、やんな」
「嫌じゃない、この匂いも好きだよ」
「ほんまに…?」
「白石なら無臭だってなんだっていい」
「え、それ…」
「…うん、白石が好きです」

さほどくさくない今の白石にだってもうこんなにどきどきしてる。それはつまり、白石の匂いではなく白石本人にどきどきしてるんだ。汗くさい匂いも好きだ。だけどそれももう白石でなければ意味がなくなった。好きな人の、匂いでなければ。

「白石以外は受け付けなくなった」
「そらええこっちゃ」
「さっき吐いたしね」
「…お世辞ちゃうんや」
「事実しか述べません」
「、嬉しいこといってくれるわ」
「白石が嬉しいとわたしも嬉しい」
「…え、なん今のデレ。あかん興奮してきた」
「は、ちょ、部活あるから抑えて」
「あと一時間は誰も来いひんな」
「白石?心の声が…」
「久しぶりにしよか。我慢の限界や」

わたしが拒否するより早く一度ぎゅううと強く抱きしめられた。久しぶりのその感覚にぐらりと目眩がする。

「ほら、その気になったやろ?」
「、ヘンタイ」
「おおきに」

ちゅ、と軽く唇を押し付けられれば、わたしの五感はもう完全に白石で支配された。


2012.03.11 end


 


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