匂いフェチ | ナノ
「白石!」
「おお、今日もえらい元気え」
「やかましい!」

放課後にまたいつもの時刻になりわたしは部室に飛び込んだ。入ってくるなり慌てるわたしにきょとん顔の白石。あれこれ昨日も似たことあったな。

「怒らんとはよここ来ぃ?」

パイプ椅子に座りとぼけた顔で子供に言うみたいに膝の上をぽんぽんと叩いてこっちに来るよう誘う白石。

「怒る!肩!なに!」
「はは、さすがの俺も何言うてんのかわからんなあ」
「だから肩!てか首!昨日なにしたの!」

今日の体育の時間、友達がわたしの方を見てきゃー!お盛んやねー!って冷やかしてきた。一瞬歯形のことかとどきりとしたがそれは肩にあるから服で隠れているはず。なのに、何故。なんのこと?と聞くと、またまたーなんてにやにやしながら一言。

「キスマークついてるよっ!って言われたんだよおおお!」

バァン!とそばにあった机を思いきり叩いた。手がじんじんするがそれどころではない。誤魔化すのどれだけ大変だったか。いやその前にどれだけ恥ずかしかったか。

「あー、つい」
「つい!?」
「あんまりにも興奮してもうて無意識のうちにこう、ちゅーっと」
「ちゅーっとじゃないわ!三つだろ!ちゅちゅちゅーだろ!」
「いや突っ込むとこそこ?」

白石は楽しそうに肩を震わせて笑っている。いや笑い事じゃないの落ち着けよお前笑うな!落ち着け!わたしも落ち着け!

「とにかく!今回は!今回は目をつぶるよ、わたし心広いから!」
「はあ、おおきに」
「今後気を付けようね!」
「なんで?」
「いやいやリスクを減らすためでしょ」
「なんの?」
「わたしたちの関係がばれることの!」
「なんで?」

うぜえええ!こいつこんな頭悪かったっけ!ううん、いつもはもっとこう知的で落ち着いてて変態で包容力あってなんでも見透かしてるみたいで変態で狡猾で変態だ。あれ、結局変態だ。混乱してきた。

「わたしたちは変態でしょ。こんなのばれたらドン引き」
「付き合ってるって言えばええやん」
「それはだめ。女子が発狂するしわたしは殺される」
「守ったる」
「女は怖いんです」

思わずため息が溢れた。なんて能天気なんだ。他人事だと思って。大体付き合うってことにすればいいとか、簡単に言わないでよ。キスマークだって恋人同士がすること。わたしたちの関係じゃおかしいんだよ。こんなことしたら。

「ほな俺にも付けたらええ」
「その発想意味わかんない」
「おあいこやろ?」
「状況が余計に悪化します」
「付けてくれへんのやったらさらに増やすで、それ」
「いや!だったら近寄らない!」
「…おあずけ?そら無理やろ」

にやりと笑う白石が立ち上がってわたしに近付く。それだけで白石の匂いが漂ってきて、無意識にごくりと喉が鳴った。

「自分におあずけは出来ひん」
「そ、そんなのわかんないでしょ」
「わかる。自分は俺とおんなじ変態や」

距離を取ろうと後ろに下がった瞬間、肩を掴まれ簡単に引き寄せられてしまった。ダイレクトに感じる香りで頭がぼうっとしだす。ああだめだやばい。本能にのまれる。

「ほらみてみぃ、簡単にスイッチ入ってるやん」
「…う、っさい」
「もう息上がってきたん?自分だけ盛り上がるんずるいわ」

椅子に座り直した白石に、おいで、そう低い声で囁かれれば残りわずかな理性も粉々にされて。従順に彼の上に跨がりよだれを垂らして首にすがりつくわたしは。ああ、どこまで変態なのだと、粉々にされた理性たちが嘲笑った。


 


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