よくよく考えてみればおかしな話だったのだ。出会って間もない、それも自分は雪だるまだなんて名乗る人相手にこんなに心を乱すなんて。好きだと言われてどきどきして不安になって。得体の知れない彼にこんな感情を抱く意味が自分でもわからない。

部屋の静けさをまぎらわすために付けたテレビからは陳腐な恋愛ドラマが流れていた。盛り上がる男女は悲痛な愛の叫びを交わす。苦難を乗り越え結ばれたらしいふたりは強く強く抱きあって愛を噛み締めていた。
すこし開けられた庭に繋がる窓を見るともはや当たり前のように彼がのんきに座っている。未だ流れ続けている恋愛ドラマを横目に窓へと近づいた。

「どうした、寂しくなったんか?」

わたしに気付いた彼が微笑みながらそう言った。窓を全開にすると冷たい夜風と共に彼の冷えた手のひらが私の頬をなでた。

「雅治くんの好きはどういう意味の好きなの?」

唐突な質問に目を丸める彼。急にどうしたと言わんばかりのその表情にただただ視線を返す。すると彼はすこしだけ困ったように眉間にしわを寄せて頭をがしがしと掻いた。

「どういう意味と言われてものう…」
「じゃああなたはわたしのことをどう思ってるの?」
「…もちろん家族ぜよ。いつも言っとるじゃろ」
「なんで家族?」
「お前さんが俺を作ったときそう言った」

今度は私が目を丸くした。数週間前の記憶をたどる。確かに言った、というか厳密にいえば心のなかで呟いた。それが彼に届いていたということなのか。

「で、お前さんはどうなんじゃ」
「どうって?」
「俺のことどう思っとる」

小首をかしげてちょっとかわいこぶったように私の顔を覗いてくる彼。どう、と言われても。どうなんだろうと視線を泳がせながら自問を繰り返した。どう思ってる?優しくて楽しくて安心する不思議なひと。それ以外は?わからない。堂々巡りな自問自答が続くなか、ふと先ほどのドラマのワンシーンが頭に浮かんだ。

「…すき、」
「ん?」
「好きよ、好きなの」

ドラマのヒロインみたいにひたすら愛を叫んでみる。

「雅治くんが好き。何よりも」
「、…どう、した急に」
「好き、好き、」

好きを言うたび、心のなかで何かがほどけていく。すき、すきだ、好き。

「ねぇ、抱きしめて」
「え…」
「おねがい」

彼は一瞬躊躇ったものの、必死に頼む私に気圧されたのか不思議そうに、でも言われたとおり抱きしめてくれた。もっととせがめば腕に力を込めてくれる。一切の熱を持たない冷たい体に抱きしめられて、雪に埋もれるような錯覚に陥る。冷たいけれど、心は温かくてどきどきした。

「うん、すき」
「?」
「わたしは雅治くんが好き」

不思議とすんなり出てきた答え。なんでだとか理由はやっぱりわからない。でも恋だの愛だのなんてのは所詮フィーリングや相性なんじゃないかなと、彼の腕のなかが心地よくて考えることがめんどうになったから、そういうことにしておく。

「俺と一緒ナリ」
「ううん、わたしが言う好きは雅治くんの好きとは違うよ」

そう言えばしばらくの間をおいて頭上から「プリッ」なんていう彼の声が聞こえた。どんな顔をしているかは見たくなかったから、その胸に顔を埋めて視界をゼロにした。

mae tsugi


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