「あ、おはよう」

翌朝、庭に出ると彼が雪で遊んでいた。私の声に振り返った彼は爽やかな笑顔でおはようと返してくれて、何かがじんわりと満たされたのを感じた。

「えらいのんびりな起床やのう。仕事はどうした」
「うん、しばらくお休みだって」

この記録的な大雪は各所に大きな被害を与えていた。積もった雪は交通機関を混乱させ、あるところでは雪の重みで家が壊れたなんてニュースもやっていた。そんな訳で会社にも交通機関が乱れていけないし、なにより外に出るのは危ないからってしばらくの休暇を今し方申し付けられた。その事を彼に伝えると嬉しそうに微笑まれた。

「ちゅうことはしばらく一緒におれるんじゃな」
「う、ん…そうね、」

ああ、なんだか胸が熱い。彼の言葉に心臓のあたりがむずむずする。どうして私と一緒に居ることをそんなに喜んでくれるの。むずむずする、けど不思議とそれは心地よく感じた。
込み上げてくる感情をどうにか抑えようとごそごそと作業をしている彼のそばに駆け寄った。

「…ね、さっきから何してるの?」
「まさはる軍団を作っとる」

まさはる一号、まさはる二号と第五号まで紹介されたのは小さな雪だるまたちだった。横一列に並べられた彼らを得意気に紹介する彼は見た目とのギャップも相まって可愛らしい。

「…ん?てかまさはるって?」
「俺の名前」

言うとらんかったかのう。そう呑気に言いながら雪の上にすらすらと自分の名前を書いた。しかもご丁寧に漢字で。

「雪だるまにも名前ってあるんだ」
「まあな、かっこええじゃろ」
「うん似合ってる」
「…プリッ」

そう言えば照れたのかマフラーに顔を埋めて第六号目の雪だるまを作り出した。自分で言ったくせに、変な子。

雅治くん。心のなかで何度か繰り返してみた。やっぱり雪だるまとは思えないなあ。だって普通の人間にしか見えないし名前あるし。だけど彼の首に巻かれたマフラーが昨日私があげたものだと気付いて、ちょっとどきりとした。

「ん?どうした」
「いや、そのマフラーちゃんと着けてくれてるんだなって」
「当然じゃろ、お前さんがくれたもんなんじゃし」

大事そうにマフラーに触れて微笑んだ彼。

「なにそれ、私のこと好きだって言ってるみたいよ」
「そのつもりぜよ」
「え」
「俺はお前さんのこと好いとうよ」

そういい放った笑顔があまりにも眩しくてクラクラと目眩がしたけど、きっとこれはなにかの冗談なのだと、そう思いこんで適当にほほえみ返した。

mae tsugi


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