誰もいない家は閑散としていてその広さを強調していた。暖房をつけているのに効いてる気がしない。ヒーターの前に座って熱々のココアをすするけど、やっぱり温まった気がしなくて。静かすぎる部屋の中でひとつため息を吐いて窓の方へ視線を移した。しんしんと尚も降り続ける雪の中にぽつりと先ほどの雪だるまが佇んでいる。その姿がやけに寂しくて、なんだか居ても立ってもいられなくて思わず窓を開けた。途端に襲い掛かってきた風雪。とっさに目をつむったけど一歩遅かったらしく雪が目を直撃した。痛い。

「おばかさんじゃのう。あったまるために家に入ったのに窓開けてどうする」

目を擦っていると頭の上から低い声が聞こえた。誰もいないはずの家。反射的に体が跳ねた。うそ、なに、

「ん?目になんか入ったんか?」

語りかけてくる低い声。どうしよう、この家ってその、居たのか。今まで気付かなかった。というか居たとして何故今さら気付くの私のばかやろう。恐怖のあまり動かない体。逃げ出したいのに、竦んでしまってどうにもならない。
すると頭の上から吹き出すような笑い声が聞こえてきた。

「お前さん、俺のことオバケとでも思っとるじゃろ」
「…へ」
「顔あげてみんしゃい」

前方で何かが動く気配を感じた。目の前に誰かがしゃがんだみたいだ。…あれ、幽霊じゃないの。目の前に居る何かに促され不安と疑問を抱きつつ恐る恐る顔をあげてみる。

「この姿では初めまして、じゃな」
「…だ、れ?」

顔をあげるとそこには見たこともないようなイケメンがいた。白銀の髪と色白な肌が彼の背景にある雪とよく似合う。予想に反した目の前の光景に呆然としていると、そのイケメンは楽しそうに口角を上げた。

「雪だるまぜよ」
「…はい?」
「さっきお前さんが作ったじゃろ?あれが俺じゃよ」

突然現れてなにをとんちんかんな事を。大体どこから入ってきたの。そんな疑問を不審者を見るような目で投げ付けると彼は自信満々といった様子で自分の後ろを指差した。

「ほれ、おらんじゃろ」
「…でも、壊せばなくなるでしょ」
「あんなぎゅうぎゅうに造られたのにそうそう壊れるはずがなかろ」

どうだ違うかと言わんばかりの表情。確かにすんごく頑丈に作ったし簡単に壊せないのは私が一番よくわかってる。大体あの一瞬で雪だるまが跡形もなく消えるはずもない。でもだからって雪だるまが人になるなんてことが

「世の中なにが起こるかなんてのは分からんもんぜよ」

私の心を読み取ったように目の前の彼が笑う。その余裕のある表情はとても嘘をついているように見えない。

「あなたが雪だるまだっていう証拠は?」
「証拠、か…なら雪だるまに変身しちゃる」
「え!」
「…と、言いたいところじゃが一度この姿になったらもう戻れん。よって証拠はないのう」

「信じるか信じないかはお前さん次第ぜよ」そう言う彼の目は自信に満ちていた。証拠もなにもないのに、まるで私が彼の言葉を絶対に信じると思っているかのようだ。

「もし私が信じないって言ったら?」
「すぐに消えるナリ」
「…信じるなら、?」
「ずっとお前さんのそばにおるよ」

ずっとそばに居る。その言葉が頭の中にこだました。彼と視線を合わせると目の前にすっと白い手が差し出される。

「ん、よろしくな」

彼の手を取ってしまったのは、私を見つめるその目があまりにも優しかったからだろうか。

「…よろしくね、雪だるまくん」

握った手は冷たくて、だけど心地よかった。

mae tsugi


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