その日から彼は夜眠るとき、私のベッドに入ってくるようになった。眠りにつくまで他愛もない話をして、甘えればぎゅっと抱きしめてくれた。朝起きれば抱きしめたままで、おはようって額にキスをしてくれた。この数日はきっと人生の中で最も充実していたと思う。例えこの行為が彼の消滅を早めているとしても。それをわかっていても、心は怖いくらいに穏やかだった。

「おはようさん、今日は雨ぜよ」

冷たかった体はもう普通の人間と同じ温度になっていて、とても温かい。心地いいぬくもりの中ぼんやりと目を覚ますと寂しそうに笑う彼がそこにはいた。

「あめ…」
「多分一日中降るじゃろうな」

カーテンの隙間からわずかに見える空はとても暗くて、しとしとと静かな雨を降らせていた。

「じゃあ引きこもりだね」
「仕事は?」
「あ、有休とったの。言い忘れてた」

今日はなにしようか?そう聞くと雅治くんは幸せそうに二度寝しようと答えた。私も笑って返事をしてふたりでまたベッドに潜った。

昼すぎに目が覚めて、それからはテレビをみたりゲームをしたり夜が更けるまでふたりでわいわいと遊んだ。ポーカーは彼の全勝。神経衰弱は互角。格ゲーは僅差で私の勝利。罰ゲームをつけてはしゃいで笑い転げた1日。家の中はあたたかくてきらきらしていた。外の世界とは対照的だった。

「はしゃぎすぎたぜよ」
「うん、笑いすぎてのど痛い」

夜になってベッドにダイブした私たちは充実したため息を吐いた。一日中遊んで疲れたせいか睡魔がゆっくりと私を支配する。隣の彼も眠そうだ。

「あったかいね」
「ん、気持ちよか」
「あったかいの辛くない?」
「幸せじゃからなんともない」

布団に潜ってなんとなく小さな声で話をする。真っ暗な世界に響くくぐもった低い声がひどく安心する。

「…春はもうすぐそこじゃな」
「そう、だね」
「お前さんの冬は、もう終わるよ」
「え?」
「俺はそのために来た」

どういうこと?唐突な言葉の意味が理解できず首をかしげてみせると、彼は笑っておやすみ、と呟いて眠ってしまった。綺麗に笑ったその笑顔が、頭から離れなかった。


それから三日三晩雨は降り続いた。雨が止むころには雪は跡形もなく、そして彼も姿を消した。

mae tsugi


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