「ほんとうはなにも言わずに消えようと思っとった」

暖房もテレビもついていない部屋の中で彼の声だけが響いた。

「どうして?」
「別れを意識して一緒におりたくはない」
「それは、そうだけど…」

その言葉になぜだか妙に納得してしまってなにも言い返せなかった。リビングのソファーに座る彼の表情はなにを考えているのかさっぱり読めない。ただ、ちゃんと消えることを肯定した上で私の質問に答えてくれていることは嬉しかった。変に気を使ってうそをつかれても悲しいだけだし。

「いついなくなっちゃうの?」
「それはわからん」
「あなたは死んじゃうの?」
「死なんよ、ただ消えるだけ」
「消えたらもう会えないの?」

彼から少し離れたところでずっと突っ立ったまま質問を投げ続けていた。そんな私をみて雅治くんは困ったように笑うと、こっちにこいと手招きをした。

「手、そんな握りしめたら痛くなるぜよ」

彼のそばまでいくとそっと手をとられた。ああ、そんなに力が入ってたのかな。彼に触れられた途端いつの間にか体に入っていた力が抜けて、そのままその胸に倒れこんだ。

「…さみしいよ」
「また会えるかはわからん。けど、俺はお前さんをひとりぼっちにする気はない」

今朝よりさらに温かくなった体。そっと彼の胸に耳を当てると心地いい低音が響いた。会えるかわからん、それはきっともう二度と会えないってことなんだ。直感的に、そう思った。

「…好き、なんだよ」
「俺も好いとうよ」
「ちがう、そうじゃないの」
「…俺とお前さんは家族じゃき」
「私はそうは 」

続けたかった言葉は大きな手に塞がれた。どうして。どうして。彼の顔が見たくて見上げようとしたら痛いくらいに強く抱きしめられてそれすら叶わなくて。骨が軋むほど抱きしめられているからなのか、苦しくて苦しくて、吐きそうなほど、胸が痛い。

「頼むから、それ以上言わんでくれ」
「まさはる、くん?」
「俺とお前さんは家族。家族、なんじゃ」

呪文のようにそう呟く彼の声はつらい気持ちを吐き捨ててるみたいにかすれていて、苦しそうだった。

「…すきよ、雅治くん」
「俺も、…好き」
「大好き、愛してる」
「好きじゃ、好き。大好き。愛しとる…」

繰り返される好きはひどく痛くて温かだった。私を抱きしめる腕は背中は震えていて、切なかった。

ごめん、ごめんね雅治くん。あなたは最後まで優しいんだ。消えちゃうもんね。家族でいることは私への最大の愛情。最高の思いやり。最強の想い。

「 だいすき 」

世界一、宇宙一、なによりもいちばん雅治くんが大好きだ。いつの間にか寂しさは、薄れていた。

mae tsugi


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