雅治くんが言ったように春が近づいているのを私も感じ始めていた。しばらく続いている快晴は次第に寒さを薄れさせ、時には冬が明ける前のあの独特な匂いのする風を吹かせていた。
雪はどんどんとけていく。まさはる軍団も、二人でつくった大きなかまくらも、庭にあるたくさんの思い出たちはその姿をどんどん小さくしていた。

「雅治くん、雅治くん」
「ん…」
「仕事いってくるね」
「ああ…気ぃつけて、いってきんしゃい」

陽射しから逃れるように木陰に隠れて眠る彼に声をかけた。少し辛そうに、でも微笑んで私を送り出してくれた。うん、いってきます。笑ってそう返す。そして車に乗って、化粧が落ちないようにすこしだけ泣いた。

雅治くんは春がくるから眠いのだと、それだけしか言わない。だけどそれだけじゃないことを私はもう気付いていた。眠ることが増えて、動くことも話すことも辛そうにして。それはきっとあのかまくらや小さな雪だるまたちみたいに、あなたも春に連れ去られようとしているからでしょう。これからあとどのくらいかはわからないけど、どんどん雪がとけて、温かくなり緑が芽吹けば。白い世界がなくなると共に、あなたも、消える。

うそつき。雅治くんはうそつきだよ。はじめて君が私のまえに現れたあの日、君は私にずっとそばにいるって言ってくれたんだよ。だけど君は消えるんだ。ここから、私のまえからとけて消えるんだ。

「うそつき」

冷たいハンドルを握りしめて迫り上がってくる切なさを振り切るようにアクセルを踏んだ。

もうすぐ私は、ひとりぼっちに後戻り。

mae tsugi


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テーマ「人外ファンタジー」
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