この前の休みから天気は次第に回復していった。ここ数日太陽が姿を見せている代わりに、雪は降っていない。
「はあ、間に合ったか」
仕事が終わり外に出ると息を乱した彼がそこにいた。どうしたの?と聞けば、ちょっと寝坊した。そう答えた。
「もしかして最近元気ない?」
毎日私が出るよりずっとはやく会社の前にいる彼が、遅刻だなんてめずらしかった。それだけならまだいいけど、ここ2、3日朝もなんだかだるそうだしよく眠る姿をみていた。
「いや?普通じゃよ」
「うそ、だってここ何日か様子が変だもん」
「んー、強いていうなら眠い」
もうすぐ春だからのうと彼は笑った。その笑みにも、力がない。
「春眠暁を覚えず、ちゅーやつか」
「まだ寒いよ?雪だって積もってる」
「そんなもんはあっという間になくなる。冬も雪も意外と短くてあっけないもんぜよ」
積もる雪をみてわずかに目を細めた彼はなんだか儚くて、消えてしまいそうに思えた。たまらずに彼に抱きついたら、冷たいはずのその肌が少しだけ温かいような気がした。
なにか言い知れぬ不安がじわりじわりと迫りくる。春がくる、もうすぐ春が。春がきたら、温かくなる。温かくなれば、雪がとける。
ねぇ雅治くん。雪がとけたら、あなたはどうなるの?
mae tsugi