眠り姫と王子様 | ナノ


何日ぶりかの鑑賞会。ほんとうは一昨日にあったけど用事があるからって財前からメールが来て、じゃあしょうがないねってことで中止になった。しょうがないなんてなんでもないように言ったけどほんとうは中止になってものすごくがっかりしてた。映画を見たかったのももちろんあるけど、それよりも財前に会えないんだなあって考えて、それが一番残念でつまらなかった。

「なんか久しぶりにあった気分だね」
「ああ…せやな」
「いやんもうわたしに会えなくて寂しかったってか?」
「寂しかったって言うたらどないすんねん、お前は」

げらげらと笑いながら冗談で放った言葉に財前はそう返した。いつもより少しだけ低い声と強い視線に思わず固まる。すると財前は冗談だと笑ってDVDの用意をしに席を立った。今のは一体なんだったのだろう。

そうして僅かな気まずさを残しながら始まった映画。今日はなにを見るのかな、そう考えながらみていたら、なんだかいつもと違うことに気付いた。

「あれ、これってラブコメ?」
「おん、たまにはな」

ラブストーリーなんて見ないっていってたのにどういう風の吹き回しなのだろう。そう思ったけどなにも聞かずとりあえずは黙ってその映画を観ることにした。

映画も中盤に差し掛かり、ふと思った。なんだか私みたいだと。天真爛漫な女の子とクールな男の子のふたりが主役。ふたりは気心の知れた友達。関係はどこまでもあっさりさっぱりしていていつも一緒にいる、そんなんじゃなくて時々ふらりと会って、楽しく話してじゃあまたねって、そんな仲。だけどほんとうはお互いもっと一緒に居たくて、会いたくて話したくて、気付けば好きになっていて。だけど今の関係を壊す勇気がなくてふたりともモヤモヤして、少しだけすれ違って。現段階ではそんな状態だった。

このヒロインが、どうしようもなく自分と重なって見えた。いつも会いたいなんて直接的には考えたこともなかったけど、授業中に財前のことばかり考えてたしたまに廊下や売店なんかで姿を見つければ嬉しくて用もないのに駆けよって挨拶をして。せっかく会える日に会えないと言われてすごくショックだったり。このヒロインを見ていたら、ああ、わたしも財前ともっと会いたいしおしゃべりしたいって、心のどこかで思ってたかもしれないと気付かされた。

「…俺は、よう分かる」
「え?」
「この男の気持ち」

それまで映画を観ていた財前がぽつりと呟いた。隣を見ればいつの間にか財前はこちらをじっとみつめていた。

「せやけどこないもたつくんは性にあわん」
「なに、言ってんの?」
「俺はな、お前のことが好きや。もう今までみたいには出来ん」
「え…、はは、冗談?」
「冗談でこないなこと言うかアホ」

べしっとチョップを食らった。だけどその手にはいつもほどの力はなかった。なんで急に。いつからなの?聞きたいことはたくさんあるのに混乱して口が動かない。ただただ財前の真剣な目を見つめることしかできない。今のわたしはきっと、すごくまぬけ面だ。

「お前のことやからどうせ頭混乱してんねやろ」
「して、る」
「別に今すぐ返事よこせとは言わん。自分がアホなんはわかっとるし」
「…おす」

待つからちゃんと考えろよと、いつも通りの横着な物言いに少しだけ安心した。それから映画は中断して、帰ることになった。もう普段と変わらない様子でいてくれて、送ろうかといってくれたけどひとりで帰ることにした。

心臓がドキドキして痛いその理由はどうしてだろう。なんて、答えはもうわかってる。と、思う。あーもう、考えろよって言ったって考えるの苦手なんだよ。財前のアホ。



たすけて王子様
0219


 

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