眠り姫と王子様 | ナノ


「ぶふっ」

授業中ふと財前にあの女の先輩の真似をしたら心底不愉快そうに睨まれて、「ぶりっこすんなきもい」とか「声がうざい」とか散々言われたことを思い出す。とくに「下の名前呼ぶな」と不愉快を通り越して腹立ててるように言われたときを思い出して笑いがでた。だってあのときの顔、珍しく動揺しててかなりまぬけだった。ぶふっ、やばい顔にやける。

いつの間にか授業がおわりチャイムが響いた。もう終わったのかと思いながら背伸びをひとつして席を立つ。お昼だわーい。パンとプリン買いにいこ。

「おお、ちょうどええとこにサボり魔発見や!」
「うげ…ひいたり先輩…」
「ひくんちゃう!おせ!忍足や忍足!」
「限りなく普通なツッコミありがとうございますでは!」
「いや待て待て待て!」

いい感じに話に区切りをつけて爽やかに逃げようとしたら首根っこつかまれて逃亡に失敗した。参っためんどくさい人に捕まった。

「放送委員の仕事ちゃんとしにこんかいお前は!」
「うえー…絶対言ってくると思いました…」
「来おへんから言われんねん」
「いいじゃないですか忍足先輩がいれば百人力ですよキャーさすがッス!」
「アホか!」
「いだだだ」

茶化したらこめかみグリグリの刑食らった。まじくそいたい。そしてお腹すいたからはやくパン買いたい。そう思って売店の方をちらりとみると、見慣れたカラフルピアスが目にはいった。

「おーい!光くうーん!」

お得意になった先輩の真似で呼んだらおもいきり肩びくってさせて財前がこっち振り向いた。ぶは!目開きすぎだろあれ。

「アホ!やめぇ言うたやろ!」
「いた!叩くなんて光くんひどーい」
「ほんまいっぺんシバいたろかお前」
「いやーん光くんいやーん」

ずんずんとすごい勢いでこっち歩いてきた財前にはたかれた。しかしそんなことでめげるわたしではないので忍足先輩の後ろに逃げて続行してやる。

「ちゅうか自分ら知り合いやったんか」
「…あれ、謙也さんおったんですか」
「どういう意味やコラ」
「あれ?おふたりも知り合い?」
「せやで、テニス部の後輩やねん」
「あー…、大変だね、財前くん」
「せやねん…ほんま手ぇかかってしゃーない」
「なんでやねん!」

ふたりはテニス部かそういえばそうだったなあ。財前がテニスしてる姿きっとかっこいいだろうなあ。はあ、それにしてもお腹すいた。

「そんなことより謙也さんなんでコイツとおるんですか」
「ああ、せや!」
「ほんとですよわたしパン買いたいんで用件はやくしてください」
「あんなあ…はあ、まあええわ。とりあえずな、委員会来いっちゅー話や」
「えー…」
「これプリント。来週の金曜放課後に集まりあんねん。来んかったら取っ捕まえて10分間頭グリグリの刑したるからな!」
「いやだ!」
「反論は聞かん!ほなな!」

そういいわたしの頭を軽く叩いてすごいスピードで去っていった。いい逃げかあのやろ…!


「…自分放送委員やったん」
「うん?まあ一応」
「謙也さんと仲ええみたいやな」
「うーん…普通じゃないか」
「めっちゃ楽しそうにしゃべってた」
「そうかなあ…」

なんとなくいつもの二割増し仏頂面の財前を不思議に思いながらわたしは売店に向かった。後ろではむすっとした顔のままわたしを待ってくれている財前。昼食の調達が済みどちらからともなく2年の階まで一緒に戻って、会話もないまま各自のクラスに入った。

忍足先輩と話すのはまあ楽しいっちゃ楽しいけど。わたしは財前くんと一緒にいる方が断然楽しいんだよ。とは、なんとなく、本人には言えなかった。



気付けば四六時中頭の中にいる存在
0216


 

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