眠り姫と王子様 | ナノ


泣いた瞬間は予想が的中してよっしゃと思うた。せやけど予想外の号泣っぷりとしおれっぷりには正直うろたえた。なにが想定の範囲内や、アホちゃう俺アホちゃう。

顔上げえ言ったんもはよ帰らなあかんやろうと思ったんとあとちょいこいつの泣き顔みたかったっちゅーのやった。せやけど実際目の当たりにしたら鼻真っ赤やしまだ泣きそうなんか口噛んで目ぇ潤ましてこっちちら見してきよるもんやから有り得へんかった。破壊力的なもんが。こいつ女やったんかと初めて思うたわ。女の涙おそるべしっちゅーやつやな。

「やあおつかれ鬼畜財前くん」
「誰が鬼畜やねん」

まあ次の鑑賞会にはけろっとしとってんけど。なんや残念やった。なんが残念なんか知らんけど、なんや俺今きもいな。

「じゃあ女泣かせの財前くん」
「女泣かせた記憶ないわ」
「ここと3年のクラスにいんだろ」
「3年?」
「いたじゃんほら、私たちが運命の出会いを遂げたあの日さ…!」

急に劇団チックになりよったアホは無視して記憶をたどった。あの日いうたらあれか、化粧のバケモンか。ちゅうかあの日出会うたんちゃうわそれより前からしっとるっちゅーねん。

「…バケモンならあんねんけど」
「ぶは!真顔で言うなし」
「ひどいとか言いながらけたけた笑いよる方も大概やけどな」
「光くんつめたあーい」
「っ!」

いつかのバケモン真似したんか突然甘ったるい声で名前呼ばれて心臓とびはねよった。なんや今の、なんやねんこれ。

「き、きもっ」
「ひどいわあー、うち、ほんまに光くんのこと好きやねんでぇ?」

完璧馬鹿にしとるんかへたっくそな関西弁に舌っ足らずなしゃべり方で俺の腕を掴んできよった。トドメはやりなれんアヒル口に上目遣い。きもい。盛大にきもい。はずやのに、なんやこれ。

「なあなあ光くぅーん」
「うっさいわアホ、そこ座っとけ」
「あーん光くんたらいけずぅ!」

辛抱ならんくてDVDの用意するために逃げた。なんやあれほんまきもいねんけど。最後とか小春先輩になっとるやんけ。

どくんどくんどくん。心臓むっちゃ痛い、なんなんこれ顔あっつ。



一緒にいるとドキドキする存在
0214


 

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