眠り姫と王子様 | ナノ


週に2、3回彼の部活がない日に昼休みと放課後にする映画鑑賞会をわたしはわりと楽しみにしていた。財前くんがもってくるものはどれもおもしろいし、彼自身も第一印象とは大きく違い楽しいからこの時間が好きだった。そして今日もオサムちゃんのお笑い講座があるから部活はいかなくていいそうで、待ちに待った鑑賞会に今日はどんな映画かななんてわくわくしていた。なのに。

「…ぅ゙え」
「そこまで泣くと思えへんかった」
「ない、てなズビッ」

あのやろうよりにもよって感動もの持ってきやがった。気づかずに最後までのめり込んでみたわたしもわたしだけど。でも感動もん苦手だっつったのにあのやろう…!はめやがった…!

「意外な一面やなあ。女子力アップやでおめでとう」
「うっせ!この話がよかっ…ゔああジョージィー…!」

思い出したらまだ泣けてくる。ハッピーエンドなんだけどどこか悲しい終わりかたで、それでもほんとうに幸せそうに笑って最後を飾る、あの役者さんの演技力ったらない。

「あれで泣かないほうが、おがじい…!」
「へーへー、とりあえず泣き止んで顔上げて鼻かめ」

映画の終盤になり涙がとまらなくてずっと机に突っ伏したまま。だって顔上げたら汚いとかブスとかなんか言われるの目に見えてるし。とかなんとか思ってたらわざとらしいでっかいため息とともに背中を行き来するぬくもりを感じた。

「はよう泣き止んでもらわんと鍵返して帰れへんねん。言うこと聞けアホ」

言葉とは裏腹に優しくすべる低い温度がちょっとだけ胸から迫りあげてくる切なさを吸いとってくれた気がした。一度思いきり鼻をすすりおとなしく顔をあげた。

「おら、ティッシュ」
「…用意がよろしいこって」
「想定の範囲内やからな」

ありがとうと極小の音量で呟いて鼻をかんだら隣から小さい笑い声と大きなてのひらが頭にふってきた。こども扱いすんなし。

「もうええか?」
「…ウィ」
「ぷっ、ぶっさいくな顔なってんで自分」
「うっせ」

なんやかんやで涙はとまった。目尻にたまって少し流れそうだったそれも冷やかしと一緒に財前が乱暴にぬぐってくれた。

「あーあ帰り遅なってもうたわ」
「ごめん…」
「帰りあったかいぜんざいな」


とかいって、ぜんざい買ったら最初の一口飲ませてくれたし帰り送ってくれたし。こういうとき優しいとかなんかずるいと思いますよ。



一緒にいると安心する存在
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