眠り姫と王子様 | ナノ


初めて聞いた声は、高くもなく低くもなく、かわいいとは言えんけどよく通る、耳にちょうどいい声やった。
初めてみた目は、きれいな黒色で光を取り込んで楽しげにきらきらしとった。
初めてしった表情の変化は、飾り気もなくむしろちょっとがさつで、怒ったり笑うたりころころとよう変わって、忙しかった。

それら全部が俺の脳内で輝いたように感じたんはこいつの前にバケモンみたいな先輩をみたからやろうか。それとも単に寝とるとこしかみたことがなかったからやろうか。

「…うっはー、これもおもしろかった!財前くんが持ってくるやつどれもおもしろいわー」

センスいいよねー、なんていいながら長時間の映画鑑賞に疲れたんか横に座る女が机の上にぐでーっと上半身を投げだした。あかん、考えごとしとったらいつの間にか終わっとった。

「まあな、当然やろ」
「主人公と敵のカーチェイスっていうの?あそこがすんごかったよね」

「ブーン!ガガガガ!っつって!」机に伏せたまま手でハンドルを握り主人公のマネをしてみせるこいつに自然と口元がゆるむ。なんや知らんけど、こういうアホなんは見よったら和むらしい。

「意外やな」
「なにが?」
「自分映画とか開始5分で寝そうやん」
「失敬な」
「ちゃうんかい」
「…まあおもしろくなかったら寝る」
「せやろうと思ったわ」

とか言うてほんまはうれしい。俺が持ってくるんはどれもおもろいとか、おもろなかったら寝るとか、それはつまり趣味があうっちゅーことで。お世辞なんか一切頭にない様子なんがまたうれしいっちゅうか、なんや心臓あたりがむずむずする。

「ま、寝とってもたたき起こしたるけどな」
「ねませんー」
「その顔うざいわ」

かたっぽの頬を机に預けたまま器用にくそ腹立つ顔をむけてきた。生意気な顔をてのひらで押し潰したら「ででででっ」とかわいない悲鳴が聞こえた。

「痛いわ!」
「机と仲ようできてよかったな」
「まったく、乙女の頬になんてことするのかしら!」
「乙女どこにおんねん」
「目の前だお」
「…きもいわ」

上目遣いでぶりっこしてきたこいつに思わず目を反らす。ふいうちや。いやなんで俺照れとんねんっちゅー話やろ。お前も何食わぬ顔でおんなアホ。

「てかさ」
「あ?」
「財前くん恋愛系はみないの?」
「…なんで」
「いや、持ってくるのアクションとかエスエフとかサイコとかだし」
「みらん」
「えー」
「なんやねん」
「見るっていったら似合わねー!って爆笑してやろうかと思ってた」

ケタケタ笑う脳天にチョップかましたった。舌かんだいうて悶えとる。ざまあ。

「あんたは見るん?」
「みない感動的なのむり」
「ヒューマンドラマみたいなんも?」
「うん」
「心荒んどんのとちゃう」
「違うし!苦手なだけ!」

苦手、なあ。むすっとそっぽむいたこいつを見て、ええこと思いついた。次持ってくるんは決まりやな。




一緒にいると楽しい存在
120214


 

×