眠り姫と王子様 | ナノ


誰もいない視聴覚室。俺が見つけたひとりになれる俺の場所。誰もいなくて邪魔されることなくDVDを大画面で観たり音楽聴いたり好き勝手出来る最高に落ち着くこの場所。そんなとこにある日、女がひとり後ろの方でぐーすか寝とるのに気付いた。俺の縄張りにいつの間にか誰かが爆睡中。誰やこいつ。近付いても全く起きる気配のないそれ。いつから居たのか、楽しい俺のひとりの時間を邪魔された。ムカムカいらいら。

「おい、起きや」

出ていけと念を込めて全力でデコピンしてみた。でもほんの一瞬眉を顰めただけでぴくりともせんかった。なんやこいつ。鼻つまんで息止めさしてみてもほっぺたつねってみても、起きる気配なし。なんでこない気持ち良さそうに寝てんねん。いらいら。
そいつを追い出すのは無駄だと思いその日はそのままにしておいた。そしたら休み時間が終わる頃、突然むくりと起き上がりフラフラとここから出ていった。俺の存在には気付いとらんらしい。一体なんなんや。イライラ。


それから次の日も、また次の日も。いつの間にかそいつはおった。毎日毎日眠りこけるそいつはやっぱり俺が何をしても起きんくて、でもチャイムの音にはすかさず反応してふらりと消えていく。相変わらず俺に気付くことはない。そんな日が何日も続いた。

「なあ、ええ加減起きぃや」

むかむか。いらいら。名前もクラスも知らんそいつ。知っとるのは寝顔だけ。起きろ。目ぇ開けて、声出せ。寝顔も寝息ももう飽きた。俺に、気付け。

「光くん。ちょっと話ええかなあ?」

いつものように視聴覚室で休んでいたらけばけばしい女の先輩が入ってきた。俺がここにおることをどこから聞きつけたのか。この場所にきつい香水の匂いが広がっていくのに酷く吐き気がした。

「うち、前から光くんのこと好きやったの」

早くここから出ていってほしくて用件を聞けば甘ったるい声でそう言われた。きしょい。ほんまに無理。この女への嫌悪感に鳥肌が立つ。さっさと諦めてもらおうと女に思ったことをそのまま言えば案の定、途端に顔色を変えて走り去っていった。
ぶっさいくなもん見て気分悪なった。腹いせに今も後ろの方でぐっすり寝とるアイツの顔で遊んでやろうと振り返った。

「みーちゃったー」

ら、あるはずのないその顔が頬杖ついて楽しそうにこっちを見とった。


あかん、なんや顔が緩みそうや。



存在を知る
-20110622


 

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