眠り姫と王子様 | ナノ


風呂から上がるとアイツからメールが来とった。告白したその日にメールてなんやねんと不安に思いつつ受信ボックスを開くとそこには「21時校門前に来られたし」と絵文字もなんもない簡素な文章が映った。可愛いげないわーと笑って、ふと気付く。…ちゅうか21時て。慌てて時計を確認するとそこにはとっくに21時を迎えてしまっている針が目に飛び込んできた。

「っアホかお前…!もっと前もってメールせな気付かへんわ…!」

死ぬほど全力で走って指定の場所に行くとブルブル震えとるアイツを見つけた。駆け寄った俺にいつものようにへらりと間抜けに笑って見せるもんやから、思わずチョップかましてもうた。

「いや悪いね、こんな時間に」
「ほんまやアホ。こっちは風呂から上がった直後やねんぞアホ」
「遅れるっていってくれたら待ってたのに」
「極寒の中で待たせられるかアホ」
「ちょ、今日アホ何回目」

震えながらもケラケラ笑うコイツ。変な時間に呼び出されたんも風呂上がりに走ったせいで汗かいたんもコイツの顔みたらまあええかで済んだ。惚れた弱みっちゅーやつやろか。きもいわ俺。

「…で、なんの用や」
「あー…うん、あの、両手広げてもらっていいかな」
「は?」
「まーいいからいいから」

訳わからへん。そう思いつつ言われた通り広げたら、突然タックルしてきよった。若干よろめきつつなんとか受け止めてみたはええけど、なんやこれ。なんで抱きつかれとん意味わからへん。

「うん、そうか。うん」
「ちょっ、おま、なんやねん」
「財前くん」
「な、なんや」
「抱きしめ返してくれないか」
「さっきからなにがしたいんやお前は」
「いいから、お願い」

引っ付いたまま顔だけを上げたコイツがいつになく真剣な顔をしとったもんやからそれ以上なんも言えんかった。しかたなく黙って抱きしめたら、さらに強く抱きしめ返されて。なんや心臓があかんことなってきよった。

「うん、やっぱそうだわ」
「…なにがや」
「わたしやっぱ財前くんが好きなんだなあって確信した」
「…は?」

財前くんあったかいわーといつも通りの間抜けな声。普段となんら変わりない態度のコイツにひとりで心臓ばくばく言わしとる俺の方がおかしいんかと錯覚しそうになる。

「…自分が今なんて言うたかわかってんのか」
「財前くんあったかいわー?」
「ちゃう、その前」
「財前くんが好きって?」
「…おん」
「わかってるよ、それ確かめるために呼んだんだし」

わたし考えるより感じる派だから抱きついたらわかると思って。と腕の中で自信満々にいうアホにもはやため息しか出えへん。なんで俺こんなん好きになってん。

「もう友達とちゃうねんぞ」
「わかってるってば。恋人でしょ?」
「ほんまにわかってんのか…」
「好きじゃなかったらこんな風に抱きつかないし、どきどきしてない」
「…へー、どきどきしてるんや」
「おうよ、めっちゃしてまっせ」

うへへ、と珍しくちょっと照れたようにこっちを見上げてはにかんだその顔になんや胸がいっぱいになって思わずちゅーした。びっくりしたんか一瞬目ぇ見開いて固まっとった。けどすぐ正気に戻ってまたうへへと照れ笑いしてみせたその顔は、寒さで赤なってた鼻も頬もさらに赤なって、そんなコイツを不覚にもかわいいとか思ってしもうた。

「いやん唇奪われちゃった」
「茶化すなアホ、空気読めアホ」
「そんなアホが好きな財前くんもかなりのアホだね」
「…うっさいわ」

認めたないけど、その通りやアホ。



めでたしめでたし
0220


 

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