言われて気付いたけど確かにわたし最近仁王としゃべりすぎだ。席替えしてすぐのときなんて目も合わせたくなくて筆談してたぐらいなのに。最悪だ。完全に仁王のペースに巻き込まれている。そしてそれを仁王本人に気付かされるというのがますます最悪だ。

「ていうかさ」
「なんじゃ」
「教科書どうした」
「…池に落としちゃった」
「…他のクラスの子から借りればいい」
「友達いないナリ」
「あー…」
「なんで納得するんじゃ」
「まあ友達いなくてもその辺の女子がいるじゃん」
「じゃあお前さんでよかろ」

ああ言えばこう言うとはまさにこのことじゃないのか。元はといえばこうやって机引っ付けてるからしゃべってしまうわけでコイツは多分普通に教科書あるわけで、つまり離れてほしいわけで。

「わたしにメリットないよねむしろデメリットしかないよね」
「どこが」
「授業に集中出来ないし昼飯うざいしむしろあんたがうざい」
「にぎやかでええじゃろ」
「ほざけあんたにぎやかとか嫌いだろ」
「うん」
「じゃあわたしたちこれで終わりにしよう」
「メリットがほしいんか?」

教科書に変な落書きをしながら仁王がそう言った。あれ、話逸らされた。つかなに人の教科書に落書きしてやがるこの野郎。

「そうね、例えば一億円当たるとかね」
「数学苦手じゃったよな」
「あと石油王になるとかね」
「毎回テスト赤点ギリギリか赤点じゃったよな」
「…何故それを」
「よし、そんなら俺が数学教えちゃるき」
「…え」
「これでお前さんの成績表からアヒルさんが一つ消えるぜよ。うん、メリットじゃな」

勝手にやる気満々になっている仁王。いやあんたに教えられるくらいなら死んだほうがマシなんだけど。ちょっと、ねぇ、だめだ完全に無視された。



そして放課後。どういう訳かひとりで図書室に居る。仁王に部活終わるまでテキストやってろと押し込まれたのだが。てかもう問題見ただけで拒絶反応出るからムリだやめやめ。しかし仁王の部活がおわるまであと二時間はある。このまま帰ると明日ねちねち言われそうだし、どうしよう寝るか。腕を枕にして頭を伏せるとすぐに睡魔がやってきて、さすがわたし適応力優れてるなんて思いながら意識を手離した。


「また寝とるんか」

仁王の声がしてぼんやりと目を開けると頬杖をついてこちらを見つめるヤツがいた。ふわふわと頭の上を行き来するあたたかい感触がきもちいい。

「…おわったの」
「おう」
「ふーん…」

頭のこれは仁王の手か。撫でられてるとか最悪、と思う心とは裏腹にその手があまりにも気持ちよくてまたうとうとと眠くなる。

「おいおい寝るんじゃなか」
「…じゃあその手を退けろ」
「気持ちええんか?」
「んー…」

睡魔に意識を持っていかれそうになりながらもどうにか声を出すとふっと仁王が笑う音が聞こえた。ああもう寝そう。

「ほら寝るな、帰るぜよ」
「いたっ!」

意識が途切れる既のところで頭のてっぺんに針で刺されたような痛みが走って飛び起きた。何事かと仁王を見つめるとニヤニヤしているそいつの手には黒い毛が二本揺れていた。

「最低ハゲた消えろ」
「起きんかった方が悪い」

摘まんでいた毛をひらりとその場に落とすともう一度帰るぜよと呟いてすたすたと歩き出した。え、あれ、勉強は。置いてかれると思いとりあえず慌てて身支度を整え後をついていく。

「勉強は」
「どの程度出来るか知りたくてテキストやるように言っとったんじゃがな」
「…」
「一から教えないかんっちゅーことしかわからんかったから今日はもう止めじゃ」
「もう一生止めでいいけど」
「数学の授業中と放課後と休みに叩き込むことにするきに」
「えっ」

地獄への呪文みたいなのが聞こえたんだけどこれ気のせいだよね寝ぼけてるだけだよね?

prev- return -next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -