その日から仁王の金魚のフン攻撃が始まった。
下手に逆らうとあのノートの切れ端を制服のポケットから覗かせて女子にうっかり見せちゃうぞという脅しをけしかけてくるからどうすることも出来ない。
一体何がしたいのだろう。目的もなにもわからないがとにかく仁王への暴言、暴力行為の証拠が綴られたそれを女子陣に見られるのはまずい。「お前ごときが仁王クンを貶すなんて何様だよアァン!?」という感じで学校生活が地獄と化す、かもしれない。だから意味のわからない嫌がらせにわたしはただ耐えるしかなかった。

「名字さん一緒にお昼食べよー!」

昼休みはいつの間にか女子に囲まれてご飯を食べるようになった。無駄に猫なで声できゃいきゃい騒ぐ女子たち。正直鬱陶しすぎてご飯がのどを通らないレベルだ。それもこれも隣で呑気にもっしゃもっしゃとパンを食べてるこの男のせい。わたしがここを離れればこの人もついてくる。そうなると女子に在らぬ誤解を招き兼ねない。しかしここに居ればわたしも仁王もただ自分の席に座ってるだけだから変に思われることはない。ということはつまりこうやって仁王の信者に囲まれて食事をとる他ないのだった。
やだもう登校拒否しそう。

「……ごちそうさま!あっー!なんだかお腹がぐるぐるするなナー!」

食事もそこそこにちょっとお手洗いに行ってきますわオホホホホと周囲に愛想笑いを浮かべてトイレに走った。あの空間から逃げられる術はもはやトイレしかない。一番奥の個室に入り鍵をかけほっと一息。なんでわたしがこんな目に。その内トイレで昼飯食べなきゃいけなくなるんじゃなかろうか。ストレス溜まりすぎて胃に穴があきそうだ。
友人はみんなあの凄まじい輪の外で傍観者を決め込んでいた。薄情者!と責めたい気持ちはあるが、まあ仕方ないとは思う。あんな空間、わたしが彼女らの立場だったら行きたくないもん。だからメールでものすごく長々しい愚痴を送りつけてストレスの捌け口になってもらっている。それがせめてもの救いだった。まあ、彼女らも仁王に妙な憧れを持っているようだからあんまりにも酷い悪口は言えないんだけど。

一通りメールをし終え、そろそろトイレから出ることを決めた。今からわたしは逃げるのだ。屋上かはたまた裏庭か。トイレの出入口から頭を覗かせ細心の注意を払い周囲を見渡す。誰にも見られていないことを確認して、一気に駆け出した。

「ははは!久しぶりにひとりだわははは!」

たどり着いた先は体育館裏だった。全く誰もいない。それはそうだ。割と狭いし、閑散としすぎていてどことなく不気味だし。こんなところで昼休みを過ごそうなんて物好きはそういないだろう。仁王もまさか体育館裏に行ったとは思うまい。訳のわからん金魚のフン攻撃から逃れることが出来た。最高にいい気分だ!

「確かにここなら誰も来んし静かでええな」

いや、うそでしょ。なんでこの人いんの?なんで普通に隣座ってんの。音もなく現れた仁王に最高だった気分はジェットコースターの如く急降下していった。

「豆鉄砲くらったような顔しちょる」

バーン!と手で銃の形をつくりわたしを打つフリをする仁王。なぜここにいるのか 愕然とする中どうにか声を絞り出して問えば、「さあて、なんでじゃろうな?」と含みのある笑みではぐらかされた。なんかもうこの人意味わからなさすぎて普通に怖くなってきた。

「ほんとなにが目的なの…わたしに付いて回ったっておもしろいことなんかないでしょ」
「いやいや。これが結構おもしろくてな、充分楽しんじょるき気遣いは無用ぜよ」

心配してくれてありがとう、なんて白々しく言われて私はガックリと項垂れた。きっとこの人は私が困ったり嫌がる様を見て楽しんでるんだ。仁王雅治はいじめっ子気質の性悪男だったらしい。とんでもない奴に標的にされてしまった。これからしばらくの間はいいオモチャにされそうだと思うと、気が滅入る一方だった。



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