「授業ひまじゃな。なんかおもしろい話ないんか?」
「…」
「のぅ?聞いちょるか?おーい」
「…」

うーん、うっとうしい。机に伏して顔だけをこちらに向けてる銀髪をギロリと睨み付けると、キャーこわーいなどと楽しそうに笑われた。なにこの人イラッとする。

仁王雅治の隣になったことで休憩時間になるとわたしの席の周りには女の子たちが集まるようになった。しかも派手めの、クラスなんかで目立つようなタイプの子ばかり。というのも仁王がなんやかんやと理由をつけて全ての教科で教科書がない紛失したとほざき席をくっつけたままだからだ。
隣にいる仁王と話すべくわたしを仲介役にでもしているのか、それともわたしと仁王が仲良くなることを阻止しようとしているのか。恐らくはそのどちらとも。いずれにせよ迷惑なことこの上ない。

それだけでもわたしのストレスは最高値を迎えているというのに極めつけはこの男だ。授業中にちょっかいを掛けてくるので、彼なりにコミュニケーションを図ろうとしてくれているんだとしたら申し訳ないが正直この上なくうざい。わたしにしか聞こえないくらいの声でこそこそと、とにかく鬱陶しい。話す内容と言えばこの上なくどうでも良いことや今のように「おもしろい話をしろ」なんて無茶ぶりばかりで、無視してもこちらが折れるまで粘ってくるしどう対処すればいいのか分からない。次の席替えくる前にわたし胃がやられてやしないだろうか。

「なにをそんなカリカリしとんじゃ。妖怪みたいなえげつない顔になっちょるぞ」
「キィィィ!」

腹が立って思わず仁王の足を踏みつけていた。予想外の攻撃が効いたのか机に顔を突っ伏して震えている。これはまずい、反射的に足が出てしまった。

「っ暴力反対ぜよ」
「……」
「腹が立ったからっちゅうて力に物言わすんはどうかと思うぞ?」
「……」
「あ〜痛いナリ〜。今日部活出れるかのぅ〜これは選手生命の危機かもしれんのぅ〜」

足踏んじゃったのはよくなかったな、なんて罪悪感を抱いたのも束の間、懲りず絡んでくるどころか鬱陶しさに拍車がかかってしまって大声でうるせー!と叫びたい衝動に駆られた。私の罪悪感を返してほしい。いややっぱりいらないから話しかけないでほしい。

「 足踏んだのはごめんなさい。これに懲りたらもう話しかけないでください。授業の邪魔です 」

仕方なく筆談での交渉を試みようとノートの端に言葉を書き連ねる。イライラしているせいか字がかなり粗っぽくなってるけどこの際知らん。

「 大事な足を踏まれたのでしばらくは根に持とうと思いマス 」

そっぽを向いたまま乱暴に書いた言葉を見せると仁王はそこに返事を書いてきた。この野郎、人のノートにそのまま返事書くんじゃない。

「 元はと言えばそっちがウザ絡みしてくるからいけないのでは? 」
「 無視するからじゃろ 」
「 無視された時点で話したくないって察してほしい 」

さらさらとノートに仁王の字が綴られていく。不思議くんだから字も読みにくそうだなんて勝手に想像してたけど、思いの外達筆だったことに不覚にも感心してしまった。

「 俺は話したい 」
「 他をあたってください 」
「 お前さんは他におらんき 」
「 顔が良いからってそんな言葉で私が絆されると思うなよ 」

筆談を進めるにつれ徐々に苛立ちが加速してしまい、あとの方は取り繕った敬語すらあやふやになるくらいほぼ殴り書きのようにしてそう書いた。すると仁王はたまらずと言った様子で吹き出して、手で顔を覆っている。これだけハッキリ嫌味を言えばさすがに気分を害すると思ったのに。何故笑う、というか、そんな震えるほど笑える内容あった?

突然笑いだした仁王を不気味に思っていたところでチャイムが鳴った。まって、うそ。時間そんなに経ってたの?うわ、結局相手してしまったうわ。板書もロクに出来ていない状態に頭を抱えていると、わたしのノートがビリリと痛々しい音を立てた。

「……は!?」
「やっぱりお前さんとは仲良うしたい」

「これはお前さんとなかよしする為のアイテムじゃき」そんな言葉に合わせるようにノートの切れ端がひらひらと宙で踊る。靡く紙切れの合間から綺麗な形の唇がにんまりと吊り上がっているのがちらついて、またしてもこの上なく嫌な予感がした。

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