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テニス部は今年甘味処をやるらしい。お団子やおしるこなどいくつかの和菓子と抹茶を振る舞うんだとか。調理のリーダーはもちろん丸井くん。味見をさせてもらったけど天才的に美味すぎて感動した。出店の飾り付けは柳くんの担当で野点傘やら緋毛氈とかいう本格的な茶屋の小道具を用意して、テニス部の出店だけクオリティーが尋常じゃなかった。やっぱり彼らはどこか桁外れだ。そんな連中のマネージャーをしたというのはある意味誇るべきことだったのかもしれない。

「しゃーせー」
「まぁやる気のない店員だこと」
「お、愛しい彼氏の様子を見に来たんか」
「そうね愛しいからタダでなんか食わせろよ」

そうして海原祭当日。毎年のことながら校内は見渡す限り人、人、人。その中でもやっぱりテニス部は群を抜いて大盛況でいつかに冗談で言った爆発が本当に起こるのではないかというくらい人気殺到だった。

「ちゅーしてくれたら好きなもん食わしちゃる」
「ここの店員セクハラきもいしたこ焼き食べにいこうかな」
「…せちがらいのう」

何がせちがらいのう、だ。まわり見ろよ見知らぬお姉さま方すごい勢いでこっちみてひそひそしてるから。あんたどんだけモテんのよ腹立たしい。

「仕事に戻れ、仁王」
「う」
「うわ出やがったな糸目鬼畜野郎、とでも言おうものならこの抹茶を頭から浴びせ」
「ご機嫌うるわしゅう柳様」
「ああ、よく来たな」

人の出入りが幾らか落ち着いた頃を見計らってテニス部の店に寄ると続々と姿を見せるイケメン達。あららあっという間に複雑な三角関係出来上がったよ。
というのはまあ冗談で、話もそこそこにわたしはとりあえずすみっこの席に座った。それなりに忙しいみたいでふたりもすぐに奥へと引っ込む。というか注文聞いていけよわたしのこと好きなくせにふたりして放置プレイか。

「よお、来んの待ってたぜ!」

そうこうしていると奥からお盆にたくさんの菓子を乗せた丸井くんがやってきた。

「な、なに?」
「明日の大会に出す菓子の試作品」
「へぇ、今年は和菓子で出るんだね」
「そ。んで色々試しまくって作りすぎたから名字にも食わしてやろうかなって」

次々にテーブルの上へ並べられる綺麗な和菓子はどこぞの老舗のプロが作ったのかと思えるほどには見た目が恐ろしく綺麗だった。これはああだこうだと説明を受けながら目につくものを食べる。味も言わずもがな美味すぎて思わず丸井くんに握手した。

「今年も優勝おめでとう」
「やっぱお前もそー思う?」
「むしろこれに勝てる人いないでしょ」
「だろぃ?さすが、わかってるわ」

自信たっぷりな丸井くん。自信満々なお菓子なら誰にもあげず一人で食べてそうなのに何でわたしにこんなにくれるのだろう。と言う疑問が顔に出ていたのか家に上がらせてもらった礼だと言われた。

「アンドまた遊びに行く為の賄賂的な」
「むしろ住んでくれ」
「やだよ、仁王に殺されんだろぃ」
「俺がそがいな小さい男に見えるんか?」

再びひょっこり現れた仁王が朱色の綺麗な菓子を摘まんで食べた。おのれ仁王フルボッコ決定。

「ブンちゃんがおっても俺らがラブラブであることに変わりはなか」
「ラブラブだった記憶がない」
「はいはいノロケごちそーさん」

もう一つ摘まもうと伸びてきた手をとりあえず全力ではたき落とす。するともう片方の手で腕を掴まれ立たされた。

「さて、そろそろ行くかのう」
「え、は?」
「ブンちゃん、休憩行かせてもらうき」
「早く戻れよなー」

呆れた様子を見せながらも止める気はない丸井くんに見送られてわたしはものの数分で店を出ることになった。

「ちょっと、仁王」
「模擬店巡り、学生ならではのデートじゃろ?」
「なに急に」
「まあええからついて来んしゃい」

わたしの腕を掴んでいた手が今度は手を取った。ああなんだ、所謂恋人つなぎってやつか。相変わらず仁王とまともな恋人をするのは慣れなくて羞恥でぞわりと鳥肌が立つんだけど、イケメンに釣られて店に居た女性客のがっかりした顔には悪い気はしなかった。手を握り返したそんなわたしを仁王は分かってて、締まりのない顔をするんだから全くもって困るんだよなあ。

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