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柳生くん桑原くん、それから意外にも真田くんが付き添いのときはマネージャー業も割りかし気楽に出来る。この三人は女性に優しいらしい。丸井くんと仁王も遊んだり出来るから楽しい。でも柳くんと幸村くんのときは楽しくない。小さなミスを見つけては姑のようにやたらといびってくるからだ。そしてそれが楽しいらしくわたしの真横にびったり付いて監視してるもんだから精神の崩壊が起こりそう。本当に辛い。

「仕事の出来が悪いわたしも悪いけど信用してなさすぎじゃないの。そんな監視しないといけないなら初めから他の人をマネージャーにすればよかったんじゃないの」
「口を動かす暇があるなら手を動かすんだな」
「きぃぃ!糸目のくせにぃぃぃ!」
「聞こえてるぞ」

真横でノート片手にわたしの作業を見ている糸目サンボウマスターが長い足で膝カックンしてきた。うげ、なんて変な声が出て見事に膝が崩れる。くすくすと頭上から笑い声が聞こえてすごく惨めだ。

「もうやだ仕事出来る子呼ぶんで辞めさせてください」
「誰もお前を使えないとは言っていない。むしろよく働いている」
「絶妙な飴と鞭」

さらさらと髪を撫でられため息が溢れた。人の扱い方を知ってる人はこれだから困る。こうやって数多の女子をめろめろにしたんだろう。

「めろめろにした覚えはないが」
「心を読まないでください」
「読んではいない。データに基づいての予測だ」
「なんのデータだよ怖いよ」

よしドリンク作った。部室の片付けと備品整理と、あとなんだっけ。

「仁王の好みを知っているか?」
「へ?」

次の作業に移ろうとその場から離れると不意に肩を掴まれた。振り向いて彼を見上げると、また同じ問いを繰り返される。

「なんすか急に」
「駆け引き上手な女に惹かれるそうだ」
「へー」
「そして俺は計算高い女が好きだ」
「へ、へえ…」
「俺と仁王は好みのタイプだけが唯一の共通点でな」

いきなりなんだというのだろう。つまりなにが言いたいのかさっぱりわからない。あと別に聞いてないしこれこそ無駄口ではないのか。

「お前はどうだ」
「どうだと言われても」
「駆け引きなんてそんな面倒なことはしないし基本的に周りに流されるタイプだから計算高くもない、か?」
「…まあ」
「だが俺が見るにお前は自分の気持ちの核心を得るためにだらだらと、仁王を見定め品定めして試しているように見える」
「あの、つまり何がいいたいんですかね」
「お前のことが気になっている」
「えええまさかの告白」

なんでそうなった。仁王といい柳くんといい突拍子もなさすぎる。そんな素振り見せなかったというかかなりいじめてたよねわたしのこと。

「返事を聞こうか」
「あー、仁王がいるんで」
「だが好きではないのだろう」
「さっき言ってたように査定中です」
「では俺に乗り換えても問題ないんじゃないか?」
「柳くんをよく知らないってのもあるけど、わたしは柳くんより仁王の方がすきなんで」
「うざいのに、か?」
「うざいばっかりでもないってわかってきたし、あと慣れたし」

最近わりと仁王の隣すきなんです。柳くんの目を見てはっきりとそう言いきりりとした顔を作る。

「…おかしな顔だな」
「なんだと」
「口元が弛んでるぞ」

ふ、と笑った柳くんにやんわりと頬を摘ままれる。あらら、シリアス顔したつもりだったのになあ。

「残念だ。少しでも迷う素振りを見せたなら奪ってしまおうと思っていたのに」
「じゃあ仁王が駄目だったら柳くんに乗り換えようかな」
「ああ、いつでも待っている」

頬を摘まんでいた手でそこをそっと撫でると彼は綺麗な唇を押し当ててその場を立ち去った。思わず頬に手を当てる。う、うわ。柳くん厨の友人には秘密厳守だなこれ。


「仁王といいイケメンに言い寄られてるわたしってもしかしてモテ期きてんのかしら」
「それよう平然と俺に話したな」

その日の帰り道とりあえず仁王にあったことを全て話すとなんとも苦い顔をされた。でも柳くんがわたしを好きだったと聞いて驚いてない辺り前から知っていたようだ。

「その方がいいでしょ」
「そらまあ…でも乗り換えるとか言うか普通」
「そうならないようにせいぜいがんばれー的な」

そう言うと少し眉間に皺を寄せて仁王は歩きを止めた。一歩遅れてわたしも立ち止まる。

「どしたの」
「参謀にちゅーされたんどこ?」
「この辺?」

大体の位置を指差すと仁王のぽってりとした唇がそこに降ってきた。それからついでとでも言うように反対側の頬にも唇がひっつく。

「はは、妬いたか」
「妬かせたんじゃろ」
「人聞きの悪い。どんな反応するか見たかっただけだし」
「そがいなこと言う口は塞いでしまおうかのう」

どさくさに紛れて近付いてきた顔面にとりあえず掌をくれてやった。べちゃりと顔を潰された仁王は不服そうだ。

「いまちゅーする雰囲気じゃったろ」
「してもいいけどわたしのほっぺにちゅーしたってことはあんた柳くんと間接キスしてるってことだからね」
「…」
「そしたらわたしも柳くんと間接キスすることになるんだよ」
「その考えはなかったぜよ…」

途端にしゅんとした仁王に笑みが溢れる。詐欺師がそんなんでいいのかねえ。

「仁王、しゃがんで」
「なんじゃ?」
「ん」

わたしの高さまで屈んだその頬にキスをした。ふいうちに目を見開く詐欺師を笑ってやる。
柳くんの言う通り、わたしは仁王を試している。核心を得たいとは思ってたけど実際そうなることを避けてだらだらと曖昧な状態を引き延ばしていたわたしがいたのも事実。だけど、そうか。それに気付いてしまった時点でもう駄目なんじゃないか。

「柳くんに煽られちゃったかな」
「煽られちゃったみたいじゃな」

キスすることが嫌じゃなくなった時点で、こうやって仲良くじゃれてる時点で。すきかきらいかなんて答えはもう出ているんだと、気付いてしまった。
見上げると視線に気付いた仁王がにやりと笑う。ああ、この男には全部お見通しみたいだ。

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