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「仕事内容はそこまで難しくはないよ。やってもらいたいことはメモに書いておくから」
「はーい」
「おや、今朝はあんなに嫌がってたのに随分と素直な返事だね」

放課後に仁王と丸井くんに連れられ人生初のテニス部部室に足を踏み入れた。レギュラー陣が大集合していて圧巻だったが諦めがついていたからかそれとも慣れてきたからなのか、前ほどびびらなくなった。

「諦めと仁王が恐怖政治を回避してくれるのでもうどうにでもなれって感じで」
「俺はそんなこと言っとらんぞ」
「じゃあやれよ」

憧れだった幸村くんにメモ紙を渡され軽い返事をすると面白くなさそうにされた。幸村くんの素性を知ったからもうなんとも思わない。あ、仁王と初めてしゃべったときの感覚に似てるなあ。

「切り替え早すぎじゃない?」
「仁王で慣れてたんで」
「なんだ、もう少しいじめてやろうと思ったんだけど」
「綺麗な顔してとんだ腹黒ですね。って桑原くんが」
「俺かよ!」

大げさに笑うと幸村くんの笑顔にどす黒さが増した。丸井くんが「俺のパクんじゃねー」なんて言っているがなんのこっちゃ知らん。幸村スマイル回避に仁王の背中に回り込んで桑原くんごめんとだけ言っておいた。

「話が逸れているようだが、練習中は次期部長である赤也と俺たちが交代で練習の様子を見る。分からないことがあれば聞いてくれ」
「へーい」

柳くんの言葉を皮切りに部活が始まった。三年生らは海原祭の準備に取り掛かり切原くんとわたしはコートに向かった。残暑厳しい外の温度と男子の熱気でもうすでに帰りたい。はやく海原祭おわんないかな。

「あ、先輩!俺お土産買ってきたんスよ!」
「え?なんの?」
「修学旅行ッス」
「おーまじで!どこ行ったんだっけ?」
「俺らは北海道でした!」

はい、そう言って切原くんがポケットから袋を取り出した。開けてみると以前話題になったまりもの股間がもっこりしたキャラのストラップ。まだこれ流行ってたのか。

「ぶは!キタコレ!」
「このもっこり見た瞬間先輩に買わないとと思ったんスよねー」
「それどういう意味かアレなんだけど、でもありがとー」

エロ顔のまりも見て和んだ。切原くんはそんなわたしを見て満足したようで爽やかにコートの中に入っていった。このまりもでしばらく頑張れそうだ。

「北海道いいよなー。うまいもんいっぱいじゃん」
「おう、丸井くん」
「今日は俺が付き添いな」
「シクヨロー」
「だーからパクんなっての」

マネージャー業一日目。仕事は想像以上にきついけど兄貴な丸井くんと楽しく談笑しながらだったから思ったより時間ははやく経った。部活に勤しむ人たちは辛そうだけど楽しそう。部活というのも案外悪いもんじゃないんだなあと思った。


「お疲れさん」
「本当にお疲れた…」

そうしてあっという間に部活が終わった。げっそりしてるわたしを見て仁王がへらりと笑みを浮かべる。悪いもんじゃないけどやっぱりどえらいきついもう辞めたい。

「部活は大変だねぇ」
「俺の気持ちが少しはわかったじゃろ」
「痛いほどに」

汗だくで制服に着替える仁王に深く頷いた。部活がおわる一時間前ぐらいにレギュラー陣がぞろぞろと出てきて後輩たちと打ち合いをしていた。仁王もそれに参加して後輩たちに色々教えていたのを見ていたから、感心の意味も含めて頭を振る。

「でもほとんど放置してたけどいいのあれ。幸村くんも真田くんも打ち合いするまで来なかったし」
「海原祭の準備っちゅーのは口実で、俺らが居らんくなった時の為の訓練みたいなもんじゃしな。幸村たちも赤也にはやく部長の仕事を覚えさせたいんよ」
「ふーむ、愛だね」
「サムイこというな」

ハハ、照れちゃって。とは言わないでおいた。でも一日見学をしてみんな変人だけど仲間想いなんだなあと思った。もちろん仁王も。だって最後の打ち合い後輩に叱咤激励やってたもんね。あの仁王が。

「あんたも先輩だったんだなあ」
「どういう意味ぜよ」
「見直したーって意味さ」
「お、ついに惚れたか」
「はやくその美ボディ仕舞えよ」

シャツ全開で近付く仁王を手で軽く払う。幸村くんに毎日部活の感想書けって言われてんだからまじ邪魔すんなし。なんて。三分の一照れ隠し。

「感想書いたか?」
「おうよ」
「どれど…」
「ドヤァ」
「…明日の幸村たちの反応が楽しみやの」
「え、なにどゆこと」

テニスに精を出す仁王はちょっとかっこよく見えたなんてあんまり認めたくないなあと、思いました。あ、これ心の感想日記。


「 変人なレギュラー陣ばかりですが、後輩へのわかりにくい愛情を垣間見てちゃんと人間なんだなあと思いなんだかほっこりしました。あ、切原くんストラップありがとう!ケータイに付けたよ!(追伸、やっぱりきついんで辞めたいです。) 」


「書き直し」

後日幸村くんに感想用ノートの角で頭叩かれて死にたくなった。意地でも書き直さねぇぞちくしょう。

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