25


数日していよいよ海原祭の準備が始まった。わたしたちのクラスは親子連れが来ても楽しめるようにダンボールなどで作れる簡単なアトラクションコーナーをすることになった。
ダーツにボーリングに玉投げや水風船すくい。限られたスペースで一体どれだけのゲームを作るのやら。ダンボールを組み立てたりベニヤ板を切ったり、みんな楽しそうだ。

「名字、呼ばれてるぞ」

作業時間に当てられた授業中、男子生徒に声をかけられた。しかもこっそりと廊下を指差し耳打ちしてきた。なんだろう、と思いつつ廊下に出てみて、後悔した。

「作業中に呼び出して悪いな」

目の前に立ちはだかる高い壁。否、柳蓮二。無言のままくるりと踵を返し教室へ戻る。が、扉の前には何故か仁王。

「え、なんで」
「まあまあ、そう逃げなさんな」

肩を掴まれぐるんと方向転換。また高い壁が現れた。けどあれ、なんか増えてる。

「名字、久しいな」
「俺は初めまして、かな」
「は、はい、ハジメマシテ!」
「フフ、緊張しているようだね」

目の前にいるのはテニス部で超有名なビッグスリーとか言われる面々で、さっきの男子が周りに聞こえないようこっそり耳打ちした訳がわかった。気の利くやつだ。

「おい、目がハートになっとらせんか」
「だって幸村くんパネェ天使」
「浮気はいかんぜよ」
「男は常に寛大であれ」
「やかましい」
「いだっ!」

べし、と眉間へのデコピンを食らう。痛い地味に痛いこれ痛い。でこを押さえて仁王を睨み付けると小さな笑い声が聞こえた。

「噂通りの仲の良さだね」
「あ、退院おめでとうございます!」
「ありがとう」
「おま、なんじゃそのきゃぴきゃぴした感じは」
「幸村くんまじイケメンまじ好み」
「おい」
「痛い痛い痛い!」

今度はこめかみグリグリされた。なにこいつ嫉妬するなら余所でやれよ。めちゃくちゃ痛いんだけど。

「お楽しみのところ悪いが、本題に入っていいか」
「あ、すいません」
「単刀直入に言おう。海原祭の準備期間中、我々のマネジメントを務めてくれんか!」
「またキター!」

真田くんの言葉に目眩がした。そうか、それでこの三強が揃ってるのか。柳くんを見るとニヤリと微笑まれる。そういえば次は、なんて前に言ってたっけ。まさかここで来るとは。はやく逃げよう。

「断ります失礼」
「こらこら話は最後まで聞けって」

逃げようと後退るも、まさかの仁王に肩を組まれ阻止された。なんで、お前味方じゃないのか。唖然と仁王を見つめると柳くんがくすりと笑う。

「言っただろう。次は仁王も味方につけるから覚悟しておくように、と」
「そんな…」
「休みの誘惑には勝てんかった」
「絶交」

仁王の腕を引っ剥がして思い切り睨んだ。わたしより休み取りやがった。へらへらしてんじゃねーよむかつくなちくしょう。後でヘッドロックかましてやるからな。

「しかし仁王と交際しているのならばもう問題はなかろう」
「ありまくりですよ。むしろ余計悪い」
「何故だ?」
「仁王のみならず他の人たちまで…!なんであいつばっかり…!ってなりそう」
「考えすぎだろう」
「いやいや女の怖さ知らないでしょう」

事実、昼食の時間は仁王とわたしが付き合っていると知った上で未だに大勢の女子が集まっている。横取りしてやろうだとか、そんな計算丸出しで。

「俺たちには関係ないじゃないか」
「え」
「お前の都合なんて聞いてないよ。どうせ学校が終われば家でだらだらと過ごしているんだろ?」
「え」
「そうやって無駄に生きているくらいなら俺たちの為に働いたらどうだい?無駄な人生にも少しは色が付くんじゃないかな」

にっこりと天使のほほえみを浮かべる幸村くん。でも今どす黒い邪気たっぷりの発言を繰り出したのも幸村くん。いやいや落ち着けよわたし、幸村くんがそんな馬鹿な。

「あの、え、」
「とりあえず今日の放課後すぐに部室に来なよ。いいね?」
「いや、あの」
「来い」
「はい」
「いい子だ」

それじゃあ。呆然とするわたしを残し満足そうに笑って去っていく天使。次いで苦い笑みを浮かべて「すまないな」そうわたしの肩を叩いて去っていくふたりに、じわじわと現実が見えてくる。

「前に言ったじゃろ。参謀よりあいつの方が怖いって」
「憧れだったのに…」
「憧れはいつか崩れるもんぜよ。それを乗り越えて人は成長する」
「…誰おまえ」
「にをうだもの」
「何故にみつを風」

落ち込むわたしの肩を叩く仁王はなぜだかちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。どうしたのと聞くと視線を横にずらし頭をぼりぼりと掻く。

「味方せんで悪かったな」
「は」
「幸村には俺も敵わん。出来もせんのに助けようとするぐらいならいっそ敵になった方がマシかと思ったんじゃが、」
「えーそんなこと」

ぶはは、と思わず笑いが出て今度はわたしが仁王の肩を叩いた。珍しくショボくれた顔したと思ったらほんとそんなことかい。

「あんたほんとわたしが好きだね」
「まあな」
「しょぼい顔ウケたからもっかいやってくんない」
「気ぃ使って損したぜよ…」

この世で一番たちの悪い奴だと思ってたけど幸村くんとか柳くん見てたら仁王がマトモに見えてきた。まあ今回はとりあえずヘッドロックは止めにして、チョップで許してやるかな。

prev- return -next



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -