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「でさ、まあ完全に仁王に振り回されてることに気付いてそりゃもう自分にがっかりしたわけさ」
「へえ」
「ほー」
「うわわ」
「今まで嫌いだ天敵だーって言ってたのにさあ、いつの間にか仁王の存在許しちゃってる自分意味わかんなくてさあ」
「うーん」
「ふーむ」
「あぶねっ!」
「で、もう考えすぎてワケわかんなくなっちゃってるんだよねゲシュタルト崩壊みたいな」
「あー」
「んー」
「ヒャッハァ!ぶっ殺す!」
「…ねぇちょっと話聞いてないよね」
夏休みも八月に入りぼちぼち宿題でもしようと久しぶりに早めの起床をした。朝昼兼用でご飯を食べていいともとごきげんようを見て、さあそろそろ宿題するかと机にそれらを広げたときだった。悪夢へのインターホンが鳴り響いたのだ。
「てかなんで来たなにしに来た」
「お前んち居心地いんだよなー」
「漫画もゲームもあるし男みたいな部屋やけんのう」
「一言余計なんだけど」
赤いのはお菓子食べながら録画してた昼ドラ見て銀は漫画、あと今日は黒いもじゃくんも来ていてその子はわたしのモンハンしてる。突然押し掛けてきたかと思えば我が家のように各々くつろぐ様子にもはやため息すら出ない。
「先輩!ディアブロス倒したっすよ!」
「なんだとでかした!そのまま亜種までたどり着け!」
「了解ッス!」
技能が足らず諦めていたものを進めてくれる切原くんはわたしにメリットがあるし居てもいいがあとのふたりは邪魔だ。でかいのがごろごろ転がってるせいでせまい。宿題できない。
「でも仁王の言う通りだろぃ。ゲーセン行くよりこっちのがくつろげるし金いらねーし。な!赤也!」
「先輩ん家住みたいくらいッス!」
「赤也、悪いが俺が先ぜよ」
「先も後もねーよ一生」
「あ、名字さんジュースおかわりー」
人の、ましてや女子の部屋をゲーセンと比べるってどうなの。この人たち日に当たりすぎて脳みそ溶けてんじゃないの。
「まあまあ、全国大会控えてる俺らを元気付けてるとでも思ってさ」
「じゃあ自主練してなよ」
「さっきまで部活あったんだしやりすぎはよくないんだよぃ」
飲み物を丸井くんのコップに注いでやっているとそう宥められた。大会を理由に持ってくんのずるいよなあ。ついでに仁王と切原くんのコップにも注ぎながらため息を吐く。あれわたし召し使い化してね。
「まあお菓子いっぱい持ってきたから許すけどさあ…」
「ちゅうかほんとは俺だけが行く予定やったのにおまんらが付いてくるき」
「え、メールきてない」
「お母さんにしたぜよ」
「何故母の連絡先を知っている…!」
「ははは」
「やだもうこわいタスケテ」
またひとつ知りたくなかったことを知りがっくりと項垂れるとわたしたちのやりとりを見ていた丸井くんが不思議そうに首をかしげた。
「そういえばさっき言ってた話だけどさ」
「うん?」
「仁王が嫌いじゃないんなら付き合ってみればいーと思う」
「あ、ちゃんと聞いてたんだ」
「物は試しっていうだろぃ?」
「人を物扱いするんじゃなか」
ちゅーもセックスもしたいと思わないのに?そう聞くと丸井くんはゲラゲラ笑った。
「さっきから本人目の前にしてよく言えるよなー」
「言わねば分かるまい」
「まじ男前」
「でも平気で嘘吐くけどな」
「仁王に言われたくないけどな」
「てか俺からしたらお前らもう付き合ってるみたいなんだけど」
「冗談はやめてくれ」
「もうさ、いっそ今日から付き合えばよくね?」
もう周りの女子はなんも言わねーだろぃ。考えるよりまずは試してみてから決めればいいじゃん。と、丸井くんが推す。丸井くんの意見も一理あるなと思い仁王を見ると、仁王は俺はお前次第だと言った。
「まあ、そうだなあ…」
「夏休みも大会終わったら少しは遊べるし、いんじゃね」
「うーん、まあ」
「付き合う?付き合うな?よしじゃあ決まりだろぃ!」
はい解決ー、と丸井くんの軽い一言で付き合うことになった。まあ丸井くんの適当さのお陰で踏ん切りついたしいいか、なんて思うわたしもたいがい適当なやつだ。
「じゃあ仁王そんな感じで」
「おー、よろしく、名前」
「!」
へらりとだらしない笑みを浮かべて抱きついてきた仁王にさらっとキスをされた。
「フゥー!お前ら大胆すぎだろぃ!」
「あ、今日だけで問題ふたつも解決したのう」
「お前ほんと頼むから死んでくれ」
なんて呆気ない。ムードもへったくれもないし、おまけに恥もない。やっぱり嫌な男だと思った。
赤也くんはゲームに夢中で空気化
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