21


それからあっと言う間に夏休みに入った。仁王は部活の大会があるようで毎日忙しいらしくここしばらくの間見かけていない。ご苦労なことである。

かく言うわたしは夏休みを満喫していた。クーラーは常に18度、昼頃にごそごそと起きて主食はアイスとそうめん。部屋着のタンクトップとショートパンツ姿で一日中ごろごろだらだら。

「女子力ゼロじゃな」

そう、女子力ゼロである。しかし夏休みくらいそんな生活したっていいと思うのです。

「ついでにプライバシーもゼロに近いよね、いま」
「あ、おじゃましまーす」
「いやそういうのでなく」
「お久しぶり?」
「いやそういうのでもなく」

部屋の扉が無遠慮に開かれ奥からは部活動に励んでいるはずの男が現れた。腹出して寝そべってたわたしは突然の訪問者を前に動くに動けない。状況が把握しきれていないのだ。

「玄関開いとったぜよ」
「だからって入る?」
「一時間前に行くっちゅうてメールしたんじゃけど」

言われてはたと気付く。そういえば携帯リビングに置いてきたままだった。

「…うん、わたしに非があったようだね」

あーあ、とだるい体を起こして飲み物を取りに行った。親は出掛けて誰もいないからリビングはたまらなく暑い。氷をいれたコップとペットボトルを持ってダッシュで部屋に戻った。

「あつい…ファンタしかなかった…セルフで…」
「おう、すまんのう」

涼しい部屋に戻り仁王に飲み物を渡してベッドに倒れ込んだ。動いたら暑いしだるい。

「だらしないのう。毎日炎天下の中頑張っとる俺を見習ったらどうじゃ」
「夏バテなので見習えません」

うつ伏せのままそう返すと尻がぺちーんと軽快な音を立てた。ひりひりする。

「ええ音したのー」
「女子の尻叩くってなに」
「ほれ、飲みんしゃい」
「お、ども」

寝そべったままごくごくとファンタを飲み干す。そういえば今日ほとんど水分とってなかったなあ。

「ところで部活は」
「次の大会が一週間後なんでな、今日は久しぶりに午前までじゃった」
「へえ、よかったね」

よくわからないが次があるということは順調に勝ち進んでいるらしい。一切応援行ってないし話も聞かないから状況全然知らないけど。

「あと彼女と別れてひま」
「え、いたんだ」
「言うとらんかったか」
「知らね。あ、期末のときの子?」
「そうそう」

結局付き合ったのか。でも確かにあの子かわいかったもんなあ。

「え、はやっ。フラれたか」
「ちがうちがう」
「え?ふったの」
「んー、なんかなー」
「丸井くんに聞いたのと違う」
「は?」
「仁王は彼女は大事にするけど性格ブスで毎回ふられるんじゃなかったのか」
「…性格ブスは余計ぜよ」

本棚から漫画を取り出してベッドに寄りかかった仁王。その横顔はなんだか複雑な様子だ。

「…可愛かったしええ子やったんじゃけどな、」
「うん、ほんと可愛かった」
「部屋もここより女の子らしくて」
「…悪かったね飾り気なくて」
「優しいし部活のあと差し入れしたり気の利く子じゃったけど」
「ふった理由が全くみつからないんだけどそれ」
「あの子は悪くないからのう。全部お前さんのせいじゃき」
「はあ?」
「お前さんとおる方が楽しいし落ち着くなーとか、そんなことばっかり考えてしもうて俺があの子と一緒に居れんくなった」

ぱらぱらと漫画を読みながらうんざりした顔で話す仁王。なんであんたがうんざりすんの腹立つわほんと。

「それわたしに告白してんの」
「いーや、俺は自分からは言わん。相手に言わせる派なんでな」
「まさか言えと?」
「言ってもええぞ」
「ない」

鼻で笑ってそう言うと仁王がこちらを向いた。なんともシリアスな表情だ。

「俺と付き合わんか」
「え」
「俺は多分また他のやつと付き合っても同じようになると思う。ちゅうかお前さん意外はどうでもいい」
「がち告白キター!」
「いやシリアスな場面なんじゃけどいま」
「だっていくら仁王がイケメンだからって恋人になりたいとか思わないし」

仁王とらぶらぶもチューもセックスも想像出来ません。否、想像したくありません。考えて鳥肌を浮かべながら言うと仁王はどんどんふくれっ面になっていく。

「俺はできる」
「はあ」
「今の格好とかすぐ襲えるぜよ」
「思春期おつ」

伸びてきた手を軽くあしらうと不機嫌度が増した。ふくれられてもなあ。いきなりそんなこと言われてもどうしようもないし。

「まあ考える時間はあるし、ゆっくりでいいでしょ」
「それ俺の台詞じゃないんか」
「あんたはとりあえず部活に集中しろ」
「…しょうがないのう」

やれやれとため息を吐いて漫画に視線を戻した仁王。そんなやつの横顔をわたしはただぼんやりと見つめた。

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