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仁王は話したいときに適当に話しかけてくる。話したくないときは話さない。わたしもそんなタイプ。そしてあまり人の詮索はしないし、されたくない。それもお互い似ているらしい。最近はしゃべらない時も増えている。だけど嫌な沈黙ではなく、ただただ互いの存在を感じつつ、まったりしているような。気付けばそんな仲になりつつあった。

「数学やばかった…」
「白紙か」
「逆。満点だったらどうしようかしら」
「俺のおかげと崇め称えて献上品を差し出すべきじゃな」
「え、だる」

季節は7月。気付けば席替えからもう二ヶ月も経っていた。そら二ヶ月も経てば仁王にもなれるよなあ。と、ぼんやり考えながら筆記用具を片付ける。悪夢のような考査も今日で終わりだ。

「なあ、このあと遊びに行かんか」
「部活は」
「今日まで休み」

練習熱心なテニス部もテスト期間はさすがに休みらしく仁王はどこかのびのびしていた。まあ確かにいくら好きでやってるとはいえあのハードさは少し同情するものがあるけど。

「休みなら休め」
「家おってもすることない」
「素振り」
「それこそ休んどらんじゃろ」

休みのときまで練習のこと考えさせるなとため息を吐く仁王に笑いながら鞄を肩にかけた。さて、わたしは帰る。

「んじゃお前さん家でゴロゴロするかの」
「弁当とハーゲンダッツとジュース買ってくるならいいよ」
「えー…」
「あ、あとからあげくんも」
「どんだけ食う気じゃ」

呆れたように言いながらわたしと歩き出す仁王。気温が高いせいか気だるさと猫背がいつもより割増ししている気がする。そんな様子を横目に見ながら下駄箱までの道を向かっていると、ひとりの女子が現れた。

「あの、仁王くん、話があるんだけど」

少し緊張した面持ちのその女子は仁王に近づくと遠慮がちにそう言った。恥ずかしそうに頬を赤らめ俯いてる清楚で可愛い子だ。おお、これは、まさしく告白というものではないのか。

「…また今度にしてくれんか」
「少しでいいから、お願いします!」

緊張している女子に対して少し困った様子の仁王。必死で頭を下げる子を前に何故かわたしの方を見てくるもんだから、はやく行けと猫背を軽く叩いた。

「んじゃお疲れー」

そして困り果てた様子の仁王にニヤニヤと笑いながらそう言ってわたしは鼻歌まじりで立ち去った。いやーおもしろいもんみたわ。

「よっ、なににやにやしてんだ?」

スキップしながら下駄箱まで行くとちょうど丸井くんに出会した。いいところにと思い今しがたあったことを笑い混じりで話す。

「告白されてあんな困り顔するとか意外だったわー」
「あいつああ見えてそういうのちゃんとしてんだぜぃ?」
「そうなの?」

下駄箱で立ち話もなんだったから一緒に帰ることにした。女子の目より仁王の恋愛事情の方が気になったのだ。

「告白もちゃんと断るし、彼女も割と大事にするっぽいし」
「噂では来るもの拒まず去るもの追わずな遊び人って聞いたけど」
「んなことねーよ。長続きしないってのと仁王がフラれるってだけで」
「性格ブスがバレるのかな」
「わかんねーけど、思ってたのと違うってよく言われるらしい」
「うわあ…」

あいつも可哀想なやつなんだよなー。と苦笑する丸井くん。確かに可哀想だ。勝手な理想を押し付けられて結果思ってたのと違うと飽きられて。わたしだったら泣く。

「だから名字さんみたいなのが新鮮なんじゃね?」
「まあ確かに好かれてるのは分かる」
「はっきり言うなー」
「仁王は興味ないやつにわざわざちょっかい出さないでしょ」
「まあな」
「ま、最近そこまで嫌じゃなくなったしいいけど」
「それってすんげー進歩じゃん」
「わたしもそー思う」

慣れって怖いよね、なんて二人で笑う。それから別れ道になり丸井くんとさよならをして家に帰った。リビングで母と談笑している銀髪を見てもおかえりーなんて言われても、前ほどなにも思わなくなったのだから、ほんと慣れって恐ろしい。

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