19


「名字先輩!」

授業間の小休憩時間、男の子が激しい足音を立てながら走ってきた。

「切原くん?どしたの」
「仁王先輩どこっすか!?」

トイレから出てきたわたしの前で急ブレーキをかけたかと思えばその子は必死の形相でそう言った。

「に、仁王なら教室なんじゃ」
「それが居なかったんすよー!どこ行ったか知らないっすか!?」

切原くんとは以前脅迫勧誘をされたときに面識があった。そして彼の中で仁王と仲がいい人という位置付けもその時にされてしまっているようで、たまに校内で会うと親しげに話しかけてくれる。仁王の後輩なのに仁王と違ってたいへんかわいい子だ。

「さあ…用事?」
「用事っつーか!あの人また俺に成り済ましてワケわかんねーことしてたんすよ!」
「またって…」
「今日という今日はもう許さねー!つーわけで先輩電話してみてくれません?」
「えーわたし番号知ら…………知ってるわ…」
「お願いします!このとーり!」

両手を合わせて必死に頭を下げる切原くん。正直仁王に自分から電話をかけるというのはしたくないんだけど、この子かわいいからなあ。一瞬の葛藤の末わたしは携帯を取り出した。

「おや、切原くんではありませんか」
「うわっ」
「あ、柳生先輩!」
「どうされたんです?三年生の教室にわざわざ」

突然背後から聞こえた声に驚いて振り向くといつの間にか柳生くんが立っていた。え、怖い。気配なかったんだけど。

「仁王先輩見てません!?」
「仁王くん?彼なら生徒会室の方へ歩いているのを見かけましたが…」
「まじすか!」
「ダッシュで行ってきなよ、わたし電話しておいてあげるから」
「すんません!頼みます!」

そう慌ただしく去っていった切原くん。ほんとかわいいなあ、と思いながら携帯のアドレス帳を開き通話ボタンを押した。

「はい、もしもし」
「…え?」

仁王に電話をかけると何故か隣にいた柳生くんが電話に出た。いやいや何故に柳生くん。通話状態のままで無表情の柳生くんを呆然と見つめると、やがて彼の口元が震えて思い切り吹き出した。

「いやーそんなアホ面見せられたらさすがに堪えられんぜよ」
「…え、えっ!」

ケラケラと柳生くんらしからぬ下品な笑い声をあげたかと思うと彼は自分の髪の毛を鷲掴みずるりと取った。一瞬なんのホラーかと叫びそうになるが、下から現れた銀色に思考が停止した。

「え、仁王、が、柳生、え、えええまじでか!」
「ええ反応じゃのー」

まだ尚笑い続ける仁王にやっと思考が追い付いてきた。つまり、これが丸井くんの言っていた詐欺ってやつみたいだ。

「コート上の詐欺師?だっけ」
「ん?よう知っとったな」
「丸井くんが言ってた」
「いつそんな話したんじゃ」
「選択科目一緒だからその時」

カツラをくるくる回す仁王を凝視する。眼鏡とかカツラとか常に持ち歩いているのか。しかもホクロ消えてる。ファンデかコンシーラーか知らんがそんなものまで持ってるということなのか。

「うわ想像した…萎える」
「は?」
「あんたがファンデとか塗ってるとこ想像した」
「あー、ホクロか」

その辺の化粧濃いそうな女子に頼んだだけだと言う仁王。そらその女子歓喜だろうな。

「あ、切原くんいじめるのやめなよ」
「えー」
「えーじゃない。次やったらわたしが許さん」
「じゃあお前さんが相手してくれるんか?」
「これ以上相手しろと?」
「休日」
「…おっと授業が始まっちまうぜ!」

適当に笑ってごまかした。だけど一瞬来てもいいけど、なんて言いそうになった自分がいて、なんかもううんざりした。

「仁王」
「あ?」
「幸村くんに変身したら家来てもいいよ」
「お母さんに浮気か!って怒られるぞ」
「…早く誤解を解かねば」

だけど仁王と一緒にいることが嫌だとは、前ほど思えなくなった。

球技大会

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