18
「まさか仁王を味方に付けるとはな。嫌いではなかったのか?」
「使えるもんは天敵だろうと使いますんで」
「ひどい言われようじゃなー」
昼休み、わたしは再び麗しの柳くんと対峙していた。今日もきれいな顔をして威圧的だ。しかし今回は間に仁王を立たせ盾にしているのでいくらか恐怖は少ない。
「ところで参謀、なんでこいつはこんなに怯えとるんじゃ」
「俺に聞かれても困るが、強いて言うならば微笑みながら脅迫したことが原因だろうな」
「そら見てみたかったぜよ」
ただならぬオーラの柳くんと楽しく談笑している目の前の銀髪に悔しいが感心せざるを得ない。なんせここ一週間テニス部レギュラー陣のめくるめく脅迫勧誘をものともせずに蹴散らしてくれたのだ。柳生くんとか切原くんを逆に脅してたぐらいだし。丸井くんが仁王は詐欺師だかなんだか敵に回すと恐ろしい奴だと言っていたがなんかちょっとわかった気がした。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
そして今日のラスボス柳くん。仁王は余裕の表情だ。今回に限り仁王かっこいい素敵って思える。まじ勇者。銀髪が輝いて見えます。
「残念ながらコイツの気持ちは変わらんかったらしい」
「そのようだな。お前が名字に味方したのは想定外だった。おかげで予定が狂ってしまった」
ため息を吐いて肩をすくめるラスボス柳くんはやれやれといった素振りを見せるものの表情は余裕そのものである。まるでまだ手はあるとでも言うかのようだ。
「そういう割には楽しそうやの」
「ああ、そうだな。とても楽しい」
「楽しんどるとこ悪いがあんまりこいつで遊ばんでくれんか」
「こいつで遊ぶのは俺だけでいい、か?」
「…そういうことぜよ」
余裕綽々な二人の涼しげな声が冷たい火花を散らしているようで見ているわたしが一番ガクブル状態である。あとわたしを取り合ってるみたいな少女漫画っぽい展開に見えなくもないこの状況にもある意味ガクブルだ。
「それは独占欲か?仁王」
「さあな」
「…ふ、実におもしろい」
仁王の後ろに隠れていたわたしを覗いてくすりと笑った柳くん。伏せられがちの目がスッとわたしに向いて思わず仁王のシャツにしがみついた。
「いいデータを取らせてもらった。これに免じて今回は諦めることにする」
「おーよかったのう、名前」
「が、次は仁王も味方につけて出直してくるからそのつもりで居ることだ」
「嫌です仁王は絶対渡しませんから」
「キャッ、照れるぜよ」
「やめろキモチワルイ」
それでは失礼する、そう言ってラスボスはなんとも充実した表情を浮かべて颯爽と去っていった。「次は」なんていう不穏な言葉があったもののなんとか一難は去ったようで、気が抜けてぐったりと仁王の背中に頭を預けた。
「助かった…」
「じゃなー」
「まじ怖かったまじ仁王勇者」
「おう、もっと誉めんしゃい」
「素敵ーかっこいーイケメーン」
「はっはっはっ」
「銀髪ーホクロー色白ー」
「…それただの特徴じゃね」
「言葉が思いつかなんだ」
「優しいとか頼りになるとか」
「うんまあ…あはは」
緊張が解けてすこしの間笑ってから、声をちいさくしてありがとうと言った。仁王はそれを無視してシャツを掴んでいたわたしの手を取るとそのまま歩き出す。
「屋上いくか」
「そうするか」
ちいさい子が列車のまねして遊ぶみたいにわたしは仁王に引っ張られながら屋上へ向かった。
たまにはサボるのも、わるくないだろう。
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