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それから数日が経ち、仁王は随分とおとなしくなった。相変わらずうざいことはうざいんだけれど、それでも一頃に比べたらそれはもう改善されたように思う。

「あー、風になりたい」
「どうしたの急に」

普段より明るい道をだらだらと歩いていると隣からひどく疲れきった声が聞こえてきた。

放課後になり仁王の部活がおわったら勉強を見てもらう、という流れがここ最近日常と化していた。のだけど今日はきついから帰りたいとのことで、せっかく勉強のために待っていたのにと少し恨めしく思いながらも仁王の顔があまりにもきつそうだったのでおとなしく帰ることにした。

「最近部活ハードすぎるんじゃ…もういや俺を解放してくれ…」
「…かなりお疲れのようだね」
「あれ以来真田がねちねちとしつこいしストレスが溜まって仕方ない。お前さんのせいじゃどうにかしんしゃい」
「身から出た錆ってやつさドントマインド」
「…この性悪冷血くされ外道女め」
「言いすぎだよね」


でかいため息を吐く仁王はいつもの二割増し猫背だし憎まれ口にも覇気がない。本当に疲れているらしく、さすがに米粒程度は心配になる。

「ぶらーっと電車旅でもしたいのー」
「どこへでも逝くがいい」
「今週行かんか」
「誰が行くか。つか部活行け」
「…いやださぼる」
「あーほら飴ちゃんやるから元気だしなよ」
「いらーん」
「じゃあおんぶでもしてやろうか」

心配とは言っても日頃の行いが悪いからこの結果になってるわけで、ざまみろという気持ちが圧勝して鼻で笑いながら馬鹿にしたように言ってやった。

「まじか頼んだ」
「えっ」

つもりだったんだけど本当にのしかかってきて、それまで嘲り笑っていたわたしはその衝撃で舌を噛んだ。

「ちょ!重い重い重い!」
「お前さんよかマシじゃろ」
「キサマ」
「ほらはよ進みんしゃい」
「ふざけんな…!」

首元でがっちりホールドされた腕はわたしの力ではとても外せず、ヤツの体重がどんどんのしかかってきてわたしまで猫背になっていく。耳のすぐそばで聞こえる声となんだか爽やかな匂いにぞわりと鳥肌が立った。

「重い!うざい!汗くさい!」
「柳生に汗ふきシートもらったきそれはないぜよ」
「ああじゃあいい匂いだわ」
「どういう意味じゃ」
「そういう意味じゃ」

肩から顔を覗かせる仁王は至近距離でジト目を送ってくる。美形が間近に迫り怯みそうになるものの負けずに睨み付けてやると口を尖らせてむくれた仁王が腕に力を込めてきた。

「ぐえ…!」
「そがいにいい匂いなら存分に嗅がせちゃるき」
「やめ゙だまえ゙仁王ぐん゙…!」
「アデュー」
「いやまじでアデューするからこれ…!」

さすがに苦しくてギブアップと叫ぶと仁王は笑いながら力を緩めた。それからまた肩から顔を覗かせてそれはもう勝ち誇ったような笑みを見せる。

「ははっ、ざまみろ」
「うざっ」
「はいはい、はよ歩きんしゃい」

相変わらず首にまとわりついている仁王は重いけどさっきほどの重量ではなかったから剥がすことは諦めて歩き出した。

「あったかいのう」
「歩きにくい…」

疲れきった顔だった仁王が楽しそうに笑っている。疲れた顔で横に居られるぐらいなら笑っていた方がまだマシだし、たまには戯れてあげるとしようか。まあ人通りの少ない道じゃなかったら引っ剥がしてやるけど。

5月の生ぬるい気温には仁王の体温は少し暑苦しかった。

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