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「よう」
「…」
「どうした、朝から元気ないのう」

登校して自分の席に行くとすぐに隣のやつに声をかけられうんざりした。元気ないとかどの口がほざいてやがる。

結局昨日の夕飯はわたしが作った。しかも一緒に近所のスーパーに買い物に行ったせいでお隣のおばさんに「あら名前ちゃんかっこいい彼氏さんねぇ!」と目撃されからかわれさらに見知らぬ老夫婦にも「まあ新婚さん?旦那さん奥さんのお手伝いなんてえらいわあ」と勘違いされさらにさらに精肉コーナーのおじさんには「仲良し夫婦にはおまけしてやろう!」と美味しいメンチカツをもらった。あの男も否定どころか「いやぁ照れますよぅ」とか「妻のためならこのぐらい当然ですぅ」とかあげくの果てには「おなかの子どもも喜びますぅ」なんてわたしの腹を擦りやがって、そのおかげで美味しいメンチカツは三つももらった。変な誤解が親のみならずご近所レベルに発展してしまいもはや泣きそうだ。しかしここで泣くわたしではないので家に帰って人生初の飛び蹴りをしてメンチカツはわたしが二つ食べて涙をのんだのだった。

「昨日は楽しかったなー」
「…」
「飯うまかったぜよ。メンチカツもラッキーじゃったな」
「…」
「今週も行こうかなー」
「絶っ対来んな!」

最大の殺意を込めて睨み付けてやるもへらへらと笑みを返されるだけに終わった。悔しい。そしてめちゃくちゃ腹立つ。

「お前さんが来るなっちゅーてもお父さんもお母さんも歓迎しとるんじゃからな」

ふふん、と得意気にいう仁王。それについては言い返すことが出来ず唇を噛みしめた。仁王が言う通りうちの親はこいつをひどく気に入ってしまったのだ。面食いな母はともかく父までも。何故かってこれがまあ仁王がすんごい猫かぶって誰だお前ってぐらい礼儀正しくて愛想がよかったからなんだけど。そうじゃなきゃこんな見た目の男さすがの両親も認めないだろう。というか認める以前に付き合ってないし。

「冗談もほどほどにしないとうちの近所どころか学校の人にまで知れ渡るからいい加減やめろまじで」
「別にかまわん」
「わたしがかまうわ!」

女子に知られてみろ、わたしはたちまち集団リンチの刑に処されるんだぞ。学園ドラマでよくあるいじめシーンの数々を思い浮かべて思わず身震いする。仁王は一切被害はないがわたしには生命の危機ぐらい被害を被るわけで。まじでやめてほしい。

「友達と遊ぶことは悪いことじゃなかろ」
「お前わたしの親とご近所になんつってんだコラ」
「プリッ」
「ああもう神様こいつに苦しみと死を与えてください…!」
「ピヨッ」

そうして仁王のうざさに歯痒くて身悶える中、一日が始まった。朝から既に疲れてうなだれるわたしとそれを見てにやにやと底意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうにする仁王。また一週間こいつの相手をするのかと思うとそれはもう深いため息がこぼれた。

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