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「名字、お前今日日直な」
「うえー」
「あと田村が休みやから…白石、代わり頼むわ」
「は…」
「え…」


朝のホームルームにて先生が放った言葉に私とやつの声が重なった。回ってきた日直当番、毎度めんどくさいことこの上なくて嫌々やってきたが今日ほど嫌だと思ったことはきっとないだろう。ふとやつの方を見るとアイツも私の方を見ていて目が合うと引き攣った笑顔を向けられた。その表情にいらっとする。嫌なら断ればいいのに。無理に笑わなければいいのに。一々カンに障る男だ。


「…なあ、」
「何。今忙しいんだけど」


ああ、田村よ。私はお前を恨もう。何故今日に限って休んだんだ。お前のせいで朝から女子に囲まれ羨ましがられ(でも誰も代わってくれない)先生には日直に関係ない仕事を押し付けられいつもより帰りが遅くなり。ああ田村よ。もし明日来たのならその時は、お前のその馬鹿面にこの純白の黒板消しをお見舞いしてやろう。ああ田村。田村田村アホ田村。


「時間割んとこ全部田村になってんで」
「…おのれ田村め」


放課後、誰も居ない教室にあの男と二人きりにさせられ小一時間が経った。黒板を消し、机の列を揃え、先生から頼まれた用事そして日誌。机をひとつ挟んだだけの至近距離にイライラと鳥肌が止まらない。ガシガシと乱暴に田村の名前を消したら消しゴムの摩擦に負けた紙が少しだけ破れた。


「名字さん」
「何」
「ひとつ聞きたいねんけど、」
「だから何」
「俺のこと嫌いな理由…教えてくれへん?」


唐突なその質問にそれまで俯いていた顔を思わずあげてしまった。真剣でどこか不安そうに揺れる瞳と自分のそれがかち合う。ずくり、胸の奥が痛々しく疼く。

「…なんでそんなこと知りたいの」
「それは…」
「別に私みたいな女ひとりに嫌われたぐらいどーってことないでしょ」
「そんなことあらへん!俺は、」
「はいはい、完璧な聖書さまは万人に好かれたいんですよねぇ」
「そんなんちゃうねん…!頼むから話聞いてくれ…!」
「アンタの話なんか聞く気ないし嫌いなやつとこれ以上話したくもない」


未完成の学級日誌を乱暴に閉じ私は教室を飛び出した。
あの空間にいることに耐えられなかった。あの男の情けない表情を見ていられなかった。なんで私がこんな思いしなきゃいけないんだ。アイツの顔が頭から離れなくて、何故だかちくちくむずむずする心臓を思い切り殴った。ちくしょう痛い。


~0705


 

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