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「 放課後テニスコートに来られたし 」


6限目の途中に来た奇妙なメールは一氏からだった。簡潔なのはいいがテニスコートには部活生やその他見物人(女子)がわらわら居て居づらいし、いつ終わるかも知らないからこれだけじゃあどこで待てばいいか分からない。そう思い具体的な時間と場所を指定してもらおうと返信をした。けれど。

6限目が終わり携帯を見る。返信は来ていない。
掃除時間、そしてホームルーム。携帯は静寂を貫いていた。
そうして携帯が震えるのを待てどメールは来ないまま、時間はとうとう放課後になってしまった。


「くそホモ、メールぐらいすぐ返せるだろ」


結局何もわからないままとりあえず教室で待機することにした。人がいなくなった教室は不気味なほど静かで吹奏楽部や運動部が活動している様子がどこか遠くに聞こえて、なんだか不思議な感じだ。

そんなことを思いつつ窓際に座りぼんやりと外を眺めていると少し遠くに見えるテニスコートに人がいないことに気付いた。時計を見るが時間はまだ30分も経っていない。メールも来ていないし、どうしたのだろうか。そう思い私はとりあえず様子を見に行こうとテニスコートに行ってみることにした。


「…え、」


テニスコートには一氏も小春ちゃんもいなかった。その代わり一番端のコートで一人黙々と練習をしている、あの男を見つけた。流れる汗や荒い呼吸からどれほど必死に練習しているかは私にでもわかる。いつも、みんながいなくなってからもこうして一人で練習していたのだろうか。汗だくになりながら必死な顔でラケットを振るあの男に、今だけは嫌味のひとつも思い浮かばなくて、そんな自分が嫌になった。


「名字!ここにおったんか」
「遅なってほんまにごめんねぇ」
「あ…」
「部室の掃除させられてもーてな…堪忍やで」
「時間もあれやし、はよ行きまひょ。今日はユウくんの奢りや!」
「あの…ごめん…、私やっぱ今日帰るわ」


探し求めていた二人がようやく現れた。二人を待ち侘びて遊ぶのを楽しみにしていたはずなのに、なんだかもう遊ぶ気にはなれなくて、二人を置いて私は静かにその場から立ち去った。

とてつもなく嫌な気分。なんでこんなにモヤモヤしてるのだろう。あの男を見たからか。ああ、きっとそうだ。あんな変な光景見たせいなんだ。
くそ、やっぱりあんなやつ、キライだ。


~0704


 

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