txt | ナノ


「なあなあ蔵リンのあの顔見たやろ?何とも思えへんかった?」
「ああ見た見た。むかつくほどに麗しゅうございました」
「アカンわこの子筋金入りやわ…」


その日の昼休み。小春ちゃんは白石のことについてしつこいくらい聞いてきた。傷付けたんやない?とか、完璧な人間があない情けない顔すると思う?とか。私も白石も彼女にとってはお友達だから放っておけないのだろう。前から白石の欠点を必死に見つけては私に言っていたけど、さっきのことがあってからそれにさらに拍車がかかった。小春ちゃんは優しいからなあ。購買で買った菓子パンを頬張りながら彼女の優しさをぼんやりと聞き流していた。


「こっはるぅー!」
「一氏ぃぃ!来るの遅いねんボケェ!」


昼休みどこかに行っていた一氏が小春ちゃん目掛けて戻ってきた。待ってましたと言わんばかりにこちらに突進してきた一氏にエルボーを食らわせる。潰れたカエルみたいな声が痛々しく響いた。お笑いのとき以外基本的に一氏に冷たい小春ちゃんと寝ても覚めても小春ちゃんラブな一氏。報われない可哀想な一氏は嬉しそうに苦しんでいた。一氏を見てると人の幸せってなんなのか時々わからなくなる。


「…、……」
「…ほんまに?…ほな…」


さっきから私に背を向けてまるでコントのネタ合わせをしているみたいにひそひそと話しているけど、二人は一体何を話しているんだろう。それもちらちらと私の方を見ているから余計気になる。それでもあえて何も聞かず菓子パンの最後の一口を口に放り込んだ。ごちそうさまでした。咀嚼し飲み込んだところで話終えたのか二人がこちらに向き直った。


「なあ、今日俺ら部活はよ終わんねんけど放課後遊ばへん?」
「え、なに急に」
「ええやないのんたまには!うちプリ撮りたいわあ」
「ええな!小春とプリクラ撮りたい!な、行こーや!今日は小春と二人きりの貴重な時間をお前にも分けたるわ!」
「なにその私邪魔者みたいな感じ」


なにを言い出すかと思えば遊びの誘いなのかと拍子抜けした。こそこそと話していたのはそんなことだったのだろうか。よく分からないが別に断る理由もないし楽しそうだからと軽い二つ返事をした。

二人の笑顔の意味など知らない私は早く学校おわんないかな、なんて二つ目の菓子パンを手に考えるのだった。


0629


 

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