コートマジック?

主人公視点

「桜井〜〜〜!今日も勝負や〜〜!」


季節は五月になり、運動部は夏の大会に向けて気合が入るころ。私たち陸上部も、まずは5月の終わりの大会に向けて毎日練習に励んでいた。



「また来た…」
「勝負やで!」
「忍足さ、ほんまにちゃんと部活行ったほうがええで」
「お前と勝負したらいくわ!」
『勝負の前に部活や部活』



忍足の後ろからぬっと現れたのは白石と小石川だった。


「おお、小石川。HRぶり」
「ああ…すまんな、謙也が迷惑かけて」
「ほんまやで。早よ持って帰ってや」
「謙也!今週地区予選なんやで!?こないなとこで油売ってる場合やないやろ!」
「うっ…」


忍足は首根っこをつかまれながら白石と小石川にテニスコートへ連行されていった。今年の男テニ、大丈夫かな…


「よっしゃ、邪魔者も消えたし練習練習!」
「なあ優奈、今週末時間ある?」
「今週末?そら練習やろ」
「せやから練習の後!男テニの試合観に行かへん?」
「男テニの試合…?」



そういえば私、テニス部の試合観に行ったことない…。女テニは友達がいるから何回か行ったことあったけど。
白石は当然、小石川とか忍足も出るんだよな…



「ふーん、おもろそうやな。何時から?」
「それがいい時間で、3時からなんやって!うちらの練習午前までやし、いかへん?」
「うん、行こうかな」



男テニもなんだかんだ毎年全国大会いってるし、四天宝寺の名物だ。たまには話題に乗っかるのもいいのかもしれない。


今週は男テニが試合ということもあり、忍足が勝負をふっかけに来ても、白石達によってテニスコートへ強制連行されるという光景が毎日続いた。忍足のこと、この冬に会うまで知らなかったけど、多分結構アホな気がする。



そして週末。練習を終えて、みんなでご飯を食べ、例の試合が行われる会場へと向かうと、そこには四天宝寺の生徒達でいっぱいだった。


「うわー、めっちゃおる」
「男テニの試合は毎年こんな感じやで」
「へえ…知らんかったわ」



生徒たちの間を割って入りながら、なんとかコートが見えるところまで行くと、そこには黄色ジャージの連中が目に入った。あ、小石川だ。相変わらず目立たないなあ、なんて失礼なこと考えながら眺めていると、忍足とデカイ人が二人、コートに入った。途端周囲から悲鳴のような黄色い歓声が湧いた。



「きゃー!忍足くーん!頑張って!」
「かっこええなあ〜謙也くん」




…忍足がモテている!?




「え、ちょっと、忍足てこんなにモテるん!?」
「せやで〜〜。ま、一番は白石くんやけどな」



確かに前に忍足はモテると聞いたような気がしたけど、まさかこんなにモテるとは。しかも心なしかコートに立つ忍足の顔つきはいつもと違ったように見える。



「コートマジック…?」
「なに言うてんの、始まるで」



試合が始まると、歓声がさらに大きくなった。…さすが四天宝寺、相手との力の差は歴然で、次々とポイントを決めていった。



『浪速のスピードスターっちゅー話や!』

「は…?」

忍足が変なことを言っている。スピードスターってなんだ



「ねえ、スピードスターって…」
「忍足くんの異名でしょ。ほんまに足速いんやで。200ではあんたに負けてるけど100は余裕で忍足くんのほうが速いし」



陸上部でもやってけるんちゃう?という部活友達。…そうだったんだ。忍足は足に自信があるから、全然諦めないで勝負を挑みにくるのか…



「私…忍足のことほとんど知らへんなあ」




コートの忍足は本当に別人で。なんだかいつものアホみたいな忍足は幻のように思えてきてしまった。

それから四天宝寺はストレート勝ちして見事次の試合に駒を進めた。



「忍足」
「んー?…うわ、びびったぁー…桜井やんか!何しとんねんこないなとこで」
「忍足のアホな姿見に来たんやで」
「ほー。そら期待はずれやったやろ?今日の俺は一味違ったで」
「いつもと変わらんわアホ」
「な…!」
「ほな私帰るわ。今から自主練やし」
「ったく、おめでとうの一つや二つ言えへんのか」



ブツブツ文句たれてる忍足。うん、やっぱり忍足はアホっぽいな。



「…忍足」
「…なんやねん」
「明日。勝負しよか。久々に」
「え…」
「…まあ別にせんでもええけど」
「す、する!よっしゃ、約束やで!」



そういうと、忍足が無邪気に笑うもんだから、なんだか思わず私まで口元が緩んでしまった。


やっぱりコートに立つ忍足より、いつもの忍足のほうがいいなあ、と思った。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -