ムカつく奴

謙也視点

「くっそ〜〜〜」

ここ数ヶ月、どうも納得のいかない毎日が続いている。浪速のスピードスターのこの俺が、女子に足の速さで劣ってるのだ。


「謙也ー。部活行くで」
「悪いな白石、俺には大切な任務があんねん」
「あほ。何が任務や。桜井に喧嘩売ってないで、部活しろや部活」
「喧嘩やない!これは俺のプライドを賭けた真剣勝負なんやで!」


ダン!と机を叩くと、白石が呆れた顔をした。いくら相手が全国区の陸上部員だとしても、この俺が同級生の女子に負けるわけにはいかないのだ。



それから白石を無視して陸上部の部室へと走り、部室から出てきた桜井を捕まえてグラウンドへ向かった。




「ま…また負けた…なんでや…」




いつもの勝負の結果、またもや俺の惨敗だった。マジでこいつ何者なんだ…。なんで勝てないんだ!



「あーええ気持ちやわあ、人に勝つのって!」
「くそー!この腹黒!部活狂!あほんだらあ!」
「負け犬の遠吠えやわ」



スカした顔で練習へ戻っていった桜井の後ろ姿を見つめながら、グラウンドに座り込んだ。


「ほんま、腹黒女や」
「謙也、負けたからって大人気ないで」
「げ、白石…」
「ほら、はよ部活出ろや。もう始まるで」
「……おー、」



仕方なく立ち上がり、白石とテニスコートへ向かった。



「…なんで勝てへんのやろ」
「…謙也?」
「相手、女子やぞ。しかも同級生やし。悔しい通りこして、悲しくなってくるっちゅー話や…」
「謙也、お前は陸上部やないやろ。テニス部なんやから、コートで早く走れればええねんで」
「…。」


白石の言うことはよくわかるけど、納得がいかなかった。それにタイムで負けることだけが問題じゃない。桜井の、俺への関心のなさが、どうにもハラタツ。あの余裕そうなスカした感じが、どうしても気に入らなかった。



「…桜井ほんまむかつく。」
「あほ、桜井に罪はないで」
「せやけど気に入らんねん。」
「ったく、少し頭冷やしや」



白石にこつ、と頭を叩かれた。

もうここ数ヶ月続いてるこの晴れない気持ちはいつ晴れるのか。このまま部活にも身が入らない気持ちが続いたら本当にまずい…。




「はあ…」
「なんや謙也、ため息ついて」
「小石川…」
「なんかあったら、なんでも相談するんやで。俺、副部長やからな」
「副部長…あ!そうや!」
「な、なんや!」
「小石川お前、桜井と同じクラスやろ!?」
「桜井…?ああ、そうやけど…」
「なあ、あいつの弱点て何なん!?」
「は…弱点?」
「頼む教えてくれ!一生のお願いや…!あいつのことギャフンと言わせたいねん!」
「そないなこと言われてもなあ。…せや!陸上部の練習でも見に行ったらええやんか」
「練習…」
「そうやで。よく他校の偵察行くみたいにして…って、部活が優先やけどな!」
「偵察か…」



小石川の話をヒントに、早速次の日俺は陸上部のグラウンドへと向かった。もちろん白石や小石川が「部活しろや!」と叫んでいたけど、やっぱりあいつに勝たないと清々しない。

グラウンドにつくと、1人練習に励む桜井の姿があった。



「桜井!」
「げっ、忍足。部活の時間やろ?」
「まあ部活はええねん。…なんや、他の陸部の奴らどこいったん?」
「…今日は部活休みやねん」
「え…じゃあ、自主練しとんの?」
「まあ、一応」


桜井はふいっと顔を背けて途中だったストレッチをし始めた。


「ほな、自分いつ休んでるん」
「私休まんでもええねん」
「は…それやとしんどいやろ」
「別に。走るの好きやし。」



黙々と練習を続ける桜井を、一歩下がって眺めてみた。こいつ…ほんとに走るの好きなんだな…
俺もテニスは好きだけど、休みは欲しい。買い物したいし、漫才みたいし。




桜井は俺が思ってた以上に、
努力していた




「…そりゃあ、勝てへんわけや…」
「何?」
「…別に!よっしゃ、今から勝負や!」
「いや部活行きや」


桜井はムカつくやつやけど、多分根っこはいい奴なんだろうと頭の片隅で思った。




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