積み重なる課題
一度好きだと気づいてしまうと、そこからはとにかく速くて。まずは財前くんに送っていた視線が倍くらいの量になり、財前くんにピントが合うように設計されてるかのように、私の目は彼の姿を追っていた。
そして財前くんを前にすると、以前の倍くらいの速さで心臓が動き、顔が赤くなるようになった。
このままじゃ、本当に心臓がもたないのではと思う。


「優奈!今日の部活、何作るん?」
「えーっと、今日はパウンドケーキだったかな…」
「パウンドケーキかあ、おいしそーやな!はあー楽しみやー」
「あ……花ちゃん、その件なんやけど…」







「え、作ったやつあげれない?」
「そ、そうやねん…」
「そんなあ、こないだくれる言うとったやんか!」
「実は、その…」
「なんや、言い訳ちゃんと聞いたるで!」
「…ざ、財前くんに、あげることになって…」
「……なんで財前?」



花ちゃんはポカンとした顔を数秒キープし、そこから一気に満面のニヤニヤ笑いのオヤジ顔になって、私の脇腹を肘で突いてきた。



「うっわー、ほんまに!?やっぱそうやと思たわ!ほーええなあ優奈、げへへへええなあ」
「ちょ…花ちゃんやめ…どこのオヤジやねん」
「大丈夫や優奈!うちに任せとき!まずは告白の場所やけど、」
「ははははははは花ちゃん!!ほんまにやめて!」


色々と順番飛ばしすぎ!と花ちゃんについていけずにいると、何やら隣に人の気配。視線をチラりと移すと、そこにはざざざざざざ


「ざざざざざざざざ財前くん!?!?!?」
「…お前もしかしてボケとんのか」
「め、滅相もありません…」
「本気でそれやってるんならちょっとやばいで」



や、やばいと言われてしまった…。また凹んでしまう。…ま、まずは私は普通の人間だと示すところから始める必要がありそうだ。



「あ…財前くん、どうかしたん?」
「…下駄箱に置いとくのやめろ」
「えっ…」
「ちゃんと直接渡してくれへん?」
「う、あ、…はい…」



それだけいうと財前くんは自分の席へ戻っていった。財前くんに作った料理をあげる約束をしてから数日。私は作ったものを、ラップやタッパーで包装して紙袋に入れ、財前くんの靴箱に置くようにしていた。
財前くんの部活の終了時間が遅いこともあるんだけど、何より毎日私から紙袋を受け取っている姿を友達や先輩に見られたら、変に噂されたり冷やかされたりするのではと思った。


でも、直接渡せって…下駄箱なんかに置いたのが気に入らなかったのだろうか…確かに食べ物を下駄箱に置くなんて汚かったかもしれない…



「ああ〜…あかん、失敗や」
「なに唸っとんの」
「私は気の利かない女や…」
「そんなちっこいこと気にしたらあかん!女は度胸や」
「度胸…」



いやいや、度胸よりもまず、私は普通だと財前くんに思ってもらえるようにすること、それと気がきく女になること。まずはここからだ




トントン


「は、…い」




誰かに肩を叩かれた。そういえばここ、教室の入り口だった…。しまったと思い、謝ろうと振り返ると、そこにはクラスの男の子たちよりも、うんと背が高い男の人。そしてその人は、他の人にはないキラキラとしたオーラを放っていた…



「あ…な、なにか…?」
「すまんけど、財前おるかな」
「えっ、財前くんですか…?」



この人、先輩だ…。すごい、こんな綺麗な男の人がこんな学校にいたなんて…。ちょっとドキドキしてしまいながら財前くんを呼んだ。こっそり二人の会話を盗み聞きしてみると、どうやら部活の先輩らしい。こんな綺麗な人がテニスなんてしたら、女の子の黄色い悲鳴が聞こえてきそうだ…。現にクラスの女の子たちがチラチラと財前くんとそのキラキラ先輩の方へ視線を向けていた。



「ほあ〜〜…綺麗な先輩や…」
「あれ、白石先輩やで。めっちゃ女の子に人気なんや」
「おそれおおくて近づけへんわ…」



だけど、その白石先輩とやら、会話の所々にエクスタシーとか変な言葉が入ってくる。やっぱり四天宝寺の生徒である。


すると、今度は白石先輩の背後から、背が高くてすらっとした、ど迫力の美人さんが顔を出した。その人は、財前くんと白石先輩に声をかけ、プリントらしきものを財前くんに渡すと、すぐにどこかへいってしまった。



「め、めっちゃ美人さんや…なあ花ちゃん、今の誰なん?」
「えーっと確か、テニス部のマネージャーや。」
「あの人もテニス部…テニス部は美男美女が揃っとるんやなあ…」



ふと窓ガラスに映った自分を見る。普通の顔に普通の体。面白みもなにもない…。平凡の鏡である。



「花ちゃん…私まずは、整形したほうがええんやろか…」
「は?なに言うてんの」


財前くん…あんな美人さんたちに囲まれて、きっと目も肥えてるだろうなあ…。私なんか眼中にすら入らないかもしれない…。問題は山積みだが、まずはできることからしよう。作った料理は手渡しで財前くんに渡す。まずはこれを実行だ。








「うそや…」


放課後の家庭科室に漂うのは、焦げ臭い匂いと若干の煙。部活で作っていたパウンドケーキが焦げたのだ。



「うわー、真っ黒焦げや。勿体無い…」
「は、花ちゃん…どないしよ…これじゃ財前くんにあげられへん…」
「うーん…さすがにこれはあかんなあ」

さすがの花ちゃんも黒焦げのパウンドケーキにはお手上げらしく、「元気出しや。また作ろ」と慰めてくれた。普通の料理もお菓子作りも、滅多に失敗しないのに、どうして…。


仕方なく私は、財前くんの下駄箱に「ごめんね、失敗してもうた」と小さなメモだけを残してきた。



「はあ、最悪や…」
「どんまい!明日は成功させたらええやん!」
「…そ、そうやな、明日頑張ればええもんな!」



よしっと意気込むと、隣で花ちゃんが目を丸くして私を見ていた。



「な、なに?」
「いや…優奈ちょっと変わったなーって」
「…?」
「前やったら、『やっぱ私あかんなあ、うん、あかんわ…』とか言いそうやったけど、最近前向きやな」
「そ……そう…かな」
「うん。めっちゃええと思う。うちそういうの好きや」



花ちゃんが私を褒めてくれるなんて、とても珍しかったので、少し恥ずかしくなってしまったが、とても嬉しかった。そのあと、花ちゃんは調子に乗って「財前もイチコロやで」なんていうもんだから、うっかり私もそれを真に受けてしまい、整形しようかなあなんて考えは一気にどこかへ消えていった。


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