「優奈!今年は同じクラスになったなあ」
「は、花ちゃん…よかったぁ…私また一人になっちゃったらどうしようかと…」
「あーもう!何泣いてんの!ほんまに優奈はすぐ泣くなあ」
「うぅ…ゴメン…」
2年生の春。私は唯一の友達花ちゃんと同じクラスになった。ホッとして思わず涙が出てしまった。新しい教室は上の階にあって、なんだか少し先輩になった気分だ。(実際なってるんだけどね)
「あ…そういえば今日始業式やなあ…また校長先生、ギャグ言うんやろか…」
「あー、言うやろなあ。今回も楽しみや!」
「また笑うタイミング間違えたらどないしよ…はあ…どないしよ…」
「だから泣くないうてるやろ!」
バシッとツッコミ風のチョップが飛んできた。花ちゃんもしっかり四天宝寺中の生徒である。すると、後ろの席からカタンと音がした。
思わず振り返ると、後ろ斜めの席に黒髪で、ピアスがたくさんついてて、イヤホンをして、だるそうな雰囲気をまとった男の子が座った。――――――ざ、財前くん!?
「ん?なんや」
「あああッ、なんでもないなんでもないッ」
「変な子やな」
財前君を間近で目にした私は絶句していまって、10秒ほど体が固まってしまった。だって、だって、一年間ずっと目で追い続けた財前君が、こんなに近くにいるんだから。まさか同じクラスになるとは思っていなかった。
うわわ、どうしよう。なんて声をかけよう。「もしかしてあの時の…?」とか知らないふりをしたほうがいいかな?心の準備ができてなさすぎる…!
「……!」
そのとき、ぱちりと財前くんと目があってしまった。しかしそれはほんの一瞬だけで、彼の視線はすぐさま携帯へと戻っていった。
「そろそろ体育館いこか」
「えっ、うん」
花ちゃんに腕をつかまれ、半分引きずられながら教室を出た。財前くんの真横を通ったが、彼の視線がこちらを向くことはなかった。やっぱりそうだ。
彼はきっと私を覚えてない―――…
・
・
新学期が始まって数日がたった。私は花ちゃんがいたのでなんとかクラスでもやっていけそうだった。残念なことに、財前くんは私よりも後ろの席なので、中々彼の様子はうかがえなかった。しかし休み時間になると、彼はイヤホンで音楽を聴きながら携帯をいじっている。どうやら友達は多いほうではないらしい。
「なあ優奈、クラスにいい感じの子、おった?」
「へっ!?お、おらん。まったくおらん!」
「…そないに否定せんでも…」
お昼ごはんは花ちゃんと中庭で食べるのが習慣になっていた。話を聞くと、女子の間ではクラスで誰がかっこいいとか、そういう話題が上がっているらしい。4月の最初なんてそんなものだ。
「ほら、財前ておるやん」
「ひぇッ!?」
「なんちゅー声だしとんの」
「あ、アハハ…」
「でな、優奈の斜め後ろの席の財前てやつ。結構女子から人気あるんやて」
一瞬、胸の奥がズシンとした。やっぱり、そうだよね。財前君はこの一年でかなり背ものびていたし、一年前の面影があまりなかった。ほかの男子よりも明らかに大人っぽいし…そりゃあ、モテよね………
「…何暗くなってんねん」
「へっ、…べ、別に」
「もしかして優奈も、財前にホの字なん?」
「ちゃ、ちゃうよ!」
「えー、アヤシー!」
このこのっ、と肘でつついてくる花ちゃんはオヤジのようだ。新学期が始まって1週間。あの財前君と同じクラスになれたのに、心は晴れないままだった。