お礼
「ちゃんと告白、したいなあ…」


ある日の昼休み、机に伏せながら、隣の席の花ちゃんを見つめてそう呟いた。

いまから購買に行こうとしていた花ちゃんは財布を手に持ちこちらを見て固まっている




「…どないしたん…熱でもあるんか」
「…熱、ないで」
「優奈の口からそんなポジティブな言葉が出るとは思わへんかった」


ほんまに大丈夫?と私のおでこに手を当ててくる花ちゃん。確かに私、今とんでもないこと言ったかもしれない。


「そうやな…もしふられたら、全部終わりやもんな…」
「あ、いつもの優奈や」


はあ、とため息をつくと、花ちゃんが売り切れるから早く購買に行こうと私の腕を引っ張った。しぶしぶ席を立とうとした瞬間、ふと隣に人の気配。視線を上げると財前くんが立っていた。


「うわああざざざざざ財前くん!!?」
「…こいついつもこんな感じなん?」
「んー、まあだいたいそうやな」



いきなりの財前くんに驚きすぎて立ち上がった瞬間椅子が後ろに倒れてしまった。呆れながら私を見る財前くんと花ちゃん。二人の冷たい視線がチクチクと刺さった。


「どどど、どしたん、財前くん…」
「もう飯食った?」
「あ…ううん、まだ…いまから花ちゃんと購買いくとこで」
「ほな、ちょっと来て」



そう言うと、財前くんは私の腕を掴みつかつかと歩き出した。


「えっ、ざ、財前くんっ?」


半分引きずられながら教室を出た。花ちゃんの「ファイトやで!」といういつもよりやや小声の声を耳で聞きながら、ふとこちらを見る高野さんが視界に入り、ぎくっとしてしまった。



財前くんは何も言わずに階段を上がり、私たちは屋上へとやってきた。



「はあ、びっくりしたあ…財前くん、どないしたん…?」
「…これ」


財前くんは不機嫌そうに袋に包まれたお弁当箱を私の前に出した。


「…お弁当?」
「…やる」
「え!?これ、くれるん?」
「ああ」
「も、もしかして…。財前くんの手作り「ちゃうわアホ」…ハイ」


勢いよく否定されて思わずビビってしまった。財前くんに渡された弁当はとても大きくて、三重はある。いったい誰が作ったんだろう…


「兄貴の嫁に、桜井から食いもんもろてることがバレて、お礼にこれ、持ってきやって」
「お、お兄さんのお嫁さんが…?」
「いらん言うてたんやけど、今料理の練習してるらしくて、無理やり持たされた」
「そ、そうなんや…」
「無理して食わんでもええから」
「えっ、そ、そんなことない!美味しくいただきます!」


私は地べたに座り、財前くんの義理のお姉さんが作ったというお弁当の蓋を開けた。



「す、すごい…キャラ弁や」
「あー…もうこれ捨ててええから」
「え!だ、だめだよ、私食べるから…!」


割り箸をわり、どこから手をつけていいのかわからないお弁当の隅をつつき始めた。あ、おいしい…



「わあ…!めちゃめちゃ美味しい…」
「お世辞いらんで」
「ほんまやで!財前くんも食べてみて」
「…、あ、ほんまや」
「お料理上手なんやね」


どうやら二人分のお弁当だったらしく、私は財前くんと、二人でお弁当を食べた。いつもよりもご飯が美味しく感じたのは財前くんが一緒だったからかもしれない…


「…なんか、急にすまん」
「えっ、そんな、なにも…」
「ほんまにあいつ、お礼しろお礼しろうるさくて…」



財前くんはお兄さんのお嫁さんの愚痴をぐちぐちと言い始めた。でも…財前くんの新しい情報を得てしまった。お兄さん、もう結婚してるんだ…



「…でも…」
「え?」
「…ちゃんとお礼は、せなあかんよな」



毎日のように飯もろてるし、という財前くん。そんな…私の方こそお礼を言いたいくらいなのに



「お礼なんて、ほんまにええからっ、」
「…でも、」
「ほんまのほんまに、私の方がお礼言いたいくらいで…!」



ぱんっ
ぱんっ


財前くんに必死にお礼はいいですアピールをしていると、すぐ近くで小さく打ち上げ花火の音がした



「いまの…花火の音…?」
「ああ…あれやろ、この近所で毎年やってる、季節外れの祭り」
「あ…そういえばそんなのあったっけ…」
「その花火の予行練習ちゃう」



空を眺めながらそういう財前くん。そのお祭りは、もう私が小さい頃からやってるお祭りで、実は一度も行ったことがないお祭りだった。


「花火、かあ」
「桜井は朝倉(花ちゃんのこと)と行くん?」
「え、あ…いまのとこは、まだ…。でも花ちゃん、明日は用事あるって言ってた気するから…多分無理やなあ」
「ふーん…」
「このお祭…ずっと行きたかったんやけど、ほら、私…友達あんまおらんから…一回も行ったことないねん」
「……」
「あ、あはは、おかしいよね、こんな近所に住んどるのに…」


な…なんだか言ってて虚しくなってきた。財前くんも、かわいそうなやつとか思ってるんだろな…



「…ほな、俺が一緒にいったるわ」
「…え?」
「…いつも飯もろてるお礼。」
「…え、…え」
「嫌なら、ええけどな」
「嫌じゃない、です…」




半分放心状態になりながらそういうと、とても間抜けな顔をしてたようで、財前くんに「おもろい顔」と言われてしまった。



財前くんと…お祭り…



財前くんとお祭り!?




「ほっ、ほほほほんまにいってくれるん!?」
「おわ、なんや急に…」
「ほんまのほんまに!?」
「まあ、これがお礼になるなら…」
「ありがとう!!財前くん!」



私はスキップ混じりの足取りで勢いよく教室へ向かった。とにかく嬉しすぎて早く花ちゃんに報告したかった。

教室へ戻ると、花ちゃんはクラスの男子たちと床に座りながら購買のパンを食べていた。花ちゃんの制服をグイグイと引っ張り、その輪から外し、ものすごい勢いでいまの経緯を報告した



「…というわけなの!」
「えーとつまり、財前お手製の弁当もろたうえに、一緒に花火作りに参加してくれるってことやな?」
「ぜんっっぜんちゃう!財前くんの義理のお姉さんお手製のお弁当もろたうえに、明日の花火大会一緒に行ってくれるんやって!」
「ほー!えらい進歩やなあ」


よかったやん!と頭を撫でてくる花ちゃん。本当に嬉しくて大人しく頭を撫でられているとまた高野さんと視線が合ってしまった


「……」


高野さんは私の方を鋭く睨むとふいっと目をそらし教室を出て行った。なんか…またおかしなことが起こりそうな予感だ


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