本当の弱虫
財前視点


最悪だ、と思った。

せっかく桜井に会えたのに。
せっかく桜井とかき氷食ってたのに。


なんでこんなとこで、しかもよりによってあの女に遭遇したんだろうか。


あの女がいなければ
あの女が変な質問して来なければ


桜井とあんな空気になることなかったのに。




パシッ




「おーい財前、なにしとんねん。返し方雑すぎるで」


白石変態部長と打ち合っていたら、打ち返したボールがネットに当たった。
あそこに存在するネットも、色々言ってくる変態も、皆イライラする



「…すんません」
「なんや、イラついとるなあ。なんかあったん」
「別に」
「…つれへんなあ」



コートから出て、頭を冷やそうと水道へ向かった。その途中うるさい謙也さんに遭遇して、「怖い顔やなあ」と言われたので「アホ面よりましっすわ」と返しておいた。



あほな先輩ら相手になら、いつもみたいに余裕を持って話せるのに。



俺は桜井のことになると急に余裕がなくなって、思ってもないこと言ったり、傷つけるようなことしたりしてしまう。



「…ほんまに、最悪や…」




解決策はわかってる。

あの時はすまん。ほんまは好きやで。そう言えばいいだけなのだけど、どうしてもそれが言えない。

連絡先のときといい、桜井相手だとビビって何も言い出せないのだ。



「…ダサ…」



自分に対して心底ダサいなと思いながら、俺の夏休みはほぼテニスで終わっていった。あれから桜井が何回か料理を持ってきてくれたけど、明らかに気まずかった。



いつのまにか夏休みも終わって、新学期が始まった。桜井とは挨拶以外話してない。ちらりと横目であいつの姿を見た。



実際のところ、あいつは俺のことをどう思っているのか。
あの時高野に「付き合ってるの?」と聞かれた時、あいつは何も答えなかった。あれはどういう意味なのか。

なのに俺ははっきり否定して、あいつを拒絶したのは俺の方なのだ。

きっと桜井も困ってるはずだ。俺が動かなくてはいけない。だけどなぜか動けない。自分がこんなにも弱虫だとは思わなかった。もしかしたら、桜井以上の弱虫かもしれない。


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bkm
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