あれから夏休みはあっという間に過ぎて、いよいよ明日は登校日だ。
財前くんには、たまに作った料理を持って行っていた。本当は毎日のように色んなものを作ってたけど、財前くんに毎日も顔を合わす気になれなかった。
あの時あんな雰囲気にならなければ…
「なんや、結局財前とはたまにしか会ってないんや」
「うん…」
「高野さんなー。あの子たぶん財前のこと好きなんやで。結構クラスの中でも気の強いほうやし、気をつけや」
「はあ…明日学校いきたない…。」
今日100回目くらいのため息をつくと、かき氷を食べながら花ちゃんが「辛気くさい!」と嫌な顔をした。
「…男と女って、難しいんやなあ…。仲良なってきた思たら、今度は付き合ってるだとか付き合ってないだとか、複雑や…」
「しゃーないやん」
けろっとそういう花ちゃんが羨ましい。私にとっては人生かけるくらいの問題なのだ。
「カップルって、自然消滅はあっても、自然に付き合うことはないんやで。絶対どっちかが「付き合おー」言わなあかんのや」
「な、なるほど…」
花ちゃん…なんか恋愛マスターみたいだ。
…でも、付き合おうなんて、そんなこと、今の私には言えない。ましてや財前くんと雰囲気悪いし…。
「どないしよ…。」
・
・
翌日
「あ…」
「…はよ」
「お、おはよう」
新学期。一番初めに会ったのは財前くんだった。普段は滅多に合わないのに、こんな時ばっか…。
相変わらず財前くんとは気まずい雰囲気が流れたままだった。
「おはよー優奈!」
「はあ…おはよお花ちゃん…はあ…」
「うわっ、なんや朝っぱらから」
その日、それから財前くんと話すことなく。何だか目も逸らされているのではと妄想が膨らんでしまった。
「…はあ、ほんまに、最悪や…」
どうしたらこの状況を変えられるんだろう。休み時間、机に突っ伏して、かんがえる。が、いくら考えても答えはわからなかった。
机で唸っていると、私の机の前に誰かが立った。勝手に花ちゃんだと思い、私は顔を上げたが、そこにいたのは高野さんだった。
「…何唸っとんの?」
「へっ…、あ、べ、別に…」
「…変な子。」
「…は、はあ…」
この人…そんなこと言うために私の席まで来たのかな…
「なあ、桜井さん」
「なっ、なに?」
「財前くんの連絡先教えてくれへん?」
え…
財前くんの、連絡先…。
財前くんの連絡先といえば、夏休みの前に教えてもらったラインのIDしかない。だけどあれは…
『誰にも教えんといて』
財前くんはあの時そう言っていた。
私は財前くんの連絡先を教えることはできない
「…そ、それは…」
「なに?はよ教えてや」
「…お、教えられま、せ…ん。」
「…は」
高野さんの顔が、一気に凍りついて、ものすごく冷たい目が私を捉えた。
「…なんで?」
「ざ…財前くんに…誰にも、教えんといてって、いわれとる…から…」
「ええやんべつに。あんたから教えてもろたなんて言わへんから」
「…や、…それでも、…ちょっと…」
「…なんや、使えへんな」
そう言うと高野さんはいつも仲良くしてる子達の元へと戻っていった。
こ…怖かった…
まるでカツアゲに遭ったかのような気分だ
「優奈〜!次数学の宿題提出やんか、答え写させて…って、…優奈?」
「は…はなちゃん…」
「脂汗かいとるで。どないしたん」
「…な、なんでも…」
トイレから戻ってきた花ちゃんはしばらく私の様子を見て心配してくれた。
その後授業が始まる直前、ふと高野さんと目があって、睨まれた。気がした。
そんな不安も全部、私の妄想であってほしい。