気まずい空気
テーブルを挟んで、目の前には財前くんと、…かき氷。


「またかき氷や…」
「なんや」
「な、なんもない」
「これが一番太らへんやろ。我慢しいや」



まあ暑いし、いいんだけど…。財前くんと二人でかき氷をつつく光景。なんか変な感じ。財前くんが頼んだかき氷は宇治金時だった。ああいう、アンコっぽいものが好きなのかな


しゃくしゃくと…かき氷をほおばる音だけが私たちの間に流れた。…何か話さないと…話題…話題…

「う〜〜〜〜〜…」
「何うなっとんねん」
「…あ、そうや!なあ財前くん、全国大会どうやった?」
「負けた」
「え」


い、いきなり地雷を踏んでしまった…!



「あ、あの、えっと、その」
「…まあ、準決勝まではいったけどな」
「準決勝!?す、すごい…」
「せやから負けたって」
「そ、そんなの関係あらへん!全国大会の準決勝なんて、簡単にいけるもんやないよ…」
「……ふーん」




「そういうもんか」とつぶやいた財前くんは、先ほどからつついていた白玉を口に放り込んだ。…財前くん…準決勝のすごさ、わかってるのかな…。さすが、私とは目指すところが違うのか…




「…桜井は」
「…え?」
「桜井は何してたん、最近」
「ぜ…じゃなくて、……料理、とかかなあ」
「へえ…家でもするんや」
「うん。夏休みの間は基本的に私の担当やねん」




ぜんざい作ってたと、ぽろっと口から出そうになった…。



「…メシ以外のもんも、作るんか」
「…お、お菓子とかなら作るよ」
「…フーン…」
「……財前くん…?」
「作ったもん食いまくっとったから、太ったんちゃう」
「そ、それは…」
「俺が食ったる」
「へ」



予想外の言葉に間抜けな声が出てしまった。財前くんに目をやると、頬杖をつきスプーンでかき氷をざくざくいじっている。

「俺が食ったる」の意味を中々呑み込めず、私は何と返事をしたらいいかわからないまま財前くんをじっと見つめた



「…何か言えや」
「えっ…、えっと…食べて、くれるん?」
「…うん。」
「…ど、どうやって…いま夏休みやし…」
「めっちゃ家近いやん。…取りに行ったるわ」
「ほ、ほんまに…?」



ってことは…夏休みに財前くんに会う会う口実ができる…?




「わ、私持ってく!作ったら財前くんに届ける…!」
「…あ、ああ」
「ま、また頑張って作るから…!」
「わ、わかった、わかったから、座りや」
「え…」



気づくと椅子から立ち上がってしまっていて、声も結構大きかったようで、周りのお客さんもこちらを見ていた。は、はずかしい…!



「ごごごご、ごめんなさい…」
「度胸あんのかないのかわからへんな」



財前くんは小さく笑うと、再びかき氷をつつき始めた。…なんか、嬉しすぎて、妙に気持ちが盛り上がってしまう…。なんか、ちょっと、付き合ってるみたいだな…なんて、思ってしまった。

一人赤面していると、財前くんが「はよくわんと溶けるで」と私のかき氷を指したので、はっとしてかき氷に手を付けた。




「…あれ…財前くん!?」




かき氷に手を付けようとした瞬間、私たちの席の横を通りかかった人が急に財前くんに声をかけた。思わず私もその人へ目をやると、同じクラスの高野さんだった




「わーめちゃ偶然!久しぶりやなあ、財前くん!」
「…ああ、高野か。久々やな」
「もう全国大会終わったん?ここのかき氷うまいよなあ…って…え…もしかして桜井さん…?」



高野さんはやっと私に気が付いたみたいで、目を丸くして私の方を見た。何を言いたいのかはなんとなくわかる。「なんで桜井さんが財前くんと?」という目だ




「あ…えっと…久しぶり、高野さん…」
「あー…うん。…なんで桜井さんと財前くんが…?」
「え、あ、……えっと…私ら家がめっちゃ近いねん!それでかき氷食べよーって…」
「それ理由になってへんと思うけど」
「あ…す、すみません」
「…もしかして二人、付き合ってる…とか?」



高野さんの言葉に、その場が凍り付いたようにしんとした。もちろん付き合ってないんだけど、さっきまで付き合ってるような錯覚をしてしまっていたせいか、中々否定の言葉がでてこなくて、私は黙りこくってしまった。






「…ちゃうわ」






たった一言、財前くんがつぶやいた言葉は、まぎれもなく否定の言葉で。その言葉は思った以上に私の心を抉った…


高野さんはその言葉に満足したのかわからないが、「またね」と店を出て行き、残った私と財前くんの間にものすごく気まずい雰囲気が流れた。




「……」
「……」
「…とけとるで」
「…あ…ほんまや」



気づいたらかき氷はもう水になっていて、残ったそれを静かにすすった。そのあと、私たちも店を出て、そのままいつものコンビニで別れた。


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bkm
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