真っ赤な顔
☆途中から財前視点




「…ふ、太った…」


夏休み真っ最中のある朝、私は体重に乗りながら青ざめた。4月の身体測定のときよりも体重が増加している…。原因は明確である。ぜんざいの食べすぎだ



「…あかん、そろそろ財前くんも戻ってくるのに…ありえへん…」



財前くんにおいしいぜんざいを作ってあげようと、毎日ぜんざいを作る練習をし、試食してを繰り返した結果がこれだ。久々に財前くんに会って、「デブ」とか言われたらどうしよう…

体重計の上でうなっていると、携帯が鳴った。慌てて出ると、花ちゃんからの電話だった。





「もしもし…」
「なんやその声。財前にふられたん?」
「な…ちゃうよ!」
「あはは、冗談やん。財前から連絡きたん?」
「…ううん、来てへんよ」




財前くんと電話をして一週間と少し。大阪に帰ってきたら連絡すると言ってくれた財前くんだったけど、まだ連絡は来ていない。まだ全国大会で東京にいるのか、それとも大阪に帰っては来てるけど私のことは忘れているかのどちらかだ。後者だったらちょっとツライ



「それなら優奈も学校おいでや」
「学校?」
「うち今陸上部の練習で学校来とるねんけど、財前おるで」
「…え?」
「テニス部、昨日全国大会終えて今日学校で練習しとるみたいや」




財前くん、帰ってきてた!



昨日全国大会が終わって、もう練習してるんだ…。なんてハードなスケジュール…私なんかに連絡しないのも無理はない。




「どうする?優奈来る?」
「…いく!」



約2週間ぶりの財前くん。連絡するって言われてるのに会いに行く(見に行く)のはちょっとうざいかなと思いつつも、財前くんの姿を一目見たい気持ちの方が大きい。私は体重が増えたことも忘れて家を飛び出した。












「優奈ー!」


学校へ着くと校庭で陸上部の練習に混ざっている花ちゃんの姿があった。




「花ちゃん、なんか焼けたなあ」
「優奈はちょっと丸くなったな」
「そ、それは言わんといて…」


少しだけぽちゃっとした私の体に相反し、花ちゃんは運動部のようなしゅっとした体つきで、隣に並ぶのが少し恐れ多かった。

陸上部かあ…そういえば、1年の春に勧誘されたなあ…。なつかしい…



「あ、優奈、あそこ」
「え…」
「テニス部おるで」



花ちゃんが指さした方向を見ると、黄色ジャージの集団が話しながら歩いているところだった。財前くんもいる。久々の、本物の財前くんの姿だ…



「……なに見とれとんねん」
「…はっ、あかん、久々すぎて…」
「声かけて来いや。うちも休憩終わるし」


そう言うと花ちゃんは陸上部の輪の中へ戻っていった。こ…声をかけろと言われても…あんなに先輩に囲まれてる中で声をかけるのはちょっと怖い。

とりあえず私もテニスコートの近くへと向かったが、もう練習は終わったようで、テニス部の人たちはテニスコートの周りで喋ったり漫才したりしていた。


木陰からそっと財前くんの様子を見る。財前くん…なんだか背が伸びたような…かっこええなあ…(気のせい)



「…どないしよ…声…かけた方がええかなあ…」










長かった大会が終わった。結果はまあ、優勝はできなかったけど、悪くはなかった。しかし気分は晴れなかった。試合負けたし。最後なんて試合すらしてなかったし。


「んもー光!いつまでそんな顔しとるん?」
「そうやでえ、終わったもんは仕方ないやろ」
「…元々こういう顔なんで」


今日は学校で練習だった。といっても軽く走るくらいの練習で、明日からは部活も夏休みに入るらしい。先輩らは高校でもテニスを続けるらしく、これからも練習に来るようだった。

相変わらず騒いでいる小春先輩とユウジ先輩を放っておき、なんとなく空を眺める。ぽんと浮かんだのは桜井の顔。ああ、しまった…そういえば、桜井に連絡してない。



「…あいつ、何しとるんやろ…」



見る限りではアウトドア系でないのは確かなので、充実した夏休みを送っているとは考えにくい。もう少し気分が晴れていれば、すぐにでも連絡するのに。柄にもなく「優勝した」とか報告したかった。


とかなんとか、考えても無意味なことを考えていると、わいわい騒いでいた先輩たちが後ろの木陰に目を向けていた。気になって俺も目を向けると、そこには一人で頭を抱えながらうなっている女子。



まぎれもなく、桜井だった



「…桜井…?」
「なんや、財前の彼女やんか」
「ほんまや、例の泣き虫彼女や」
「彼女じゃないっす」



ちゃかしてくるユウジ先輩と小春先輩の受け答えをしつつ桜井の方へ視線をやった。なんでここにいるのかとか、夏休みなにしてたのかとか、話したいことは山ほどあったけど、どうやら自分の世界に入ってしまってるらしく、全くこちらに気づいていない。



「めっちゃ自分の世界はいっとるで」
「何しとんねんあいつ…」




仕方ないので、桜井のそばへ行き近づいてみたが、それでも気づかない。




「はあ…どないしよどないしよ…」
「…桜井」
「声かけた方がええかな…ああでもストーカー思われへんかなあ…」
「桜井」
「ああ〜…どないしよ〜…」
「…桜井!」




いつもの倍くらいの声で桜井を呼ぶと、やっと俺に気づいたらしく、目を丸くしてこっちを見た桜井。




「…ぶっ、アホ面や」
「ざっ、ざざざざざざ財前くん!?」
「せやから、ざが多いねん」
「ぐ、偶然やなあ、今ちょうど通りかかったとこで…」
「…ぷ、」
「(あかん…全部バレとる…)」




恥ずかしくなったのか、顔を手で覆う桜井。やっぱこいつおもろいな、と思って見ていると、桜井は手で顔を覆ったまま動かなくなった。



「…?おい、どないしたん」
「………」
「…桜井?…また泣いとんのか」
「…泣いてへん…」
「…たく、しょーもない奴やな。ほら、手どかし…」




また涙と鼻水をふいてやろうと思い優奈の手をどかしたが、…泣いて、ない。だけどかわりに、顔が真っ赤になっていた。



「…なんちゅー顔しとるん」
「…私も、よくわからん…けど、」
「けど、なんや」
「…財前くんに会えたの、めっちゃ嬉しいみたい…」








何を言ってるのかわかってるのか、こいつは…。いや、多分わかってない。どストレートな分、こっちも恥ずかしくなってきた…




ボスっ



「…わっ」
「もう部活終わるし、その辺で待っとき」



桜井の頭にタオルをかけて、先輩らの方へと戻った。




「なんや財前、もう話ええんか。もっと話してきてもええんやで〜」
「…うるさいっす」
「ほんまに隅に置けへんわねえ!…て、光?」
「なんすか」
「顔、まっかやで」
「…!」



小春先輩とユウジ先輩に言われて、つい俺も顔を隠したくなった。…さっきまで全国大会の悔しさでモヤついていたのに、いつのまにか気分が晴れていた。



桜井の存在は俺の中で結構でかいらしい。


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