離れない気持ち
主人公視点

その日は朝から体調がすぐれなかった。きっと昨日走った疲れが残っているのだろう。だけど、部活行かなきゃ…今日行けば明日は休みなんだ。我慢しよう。なんでもないふりなら得意中の得意だから



「優奈ちゃん、おはよう〜」
「小春ちゃん、おはよ」
「今日もめっちゃ暑いわね〜、熱中症気いつけや」
「小春ちゃんもね」


とりあえず誰にも体調が悪いのはばれていないようだ。しかし本当に暑いな。いつになったら涼しくなるんだか…



「なあ優奈ちゃん」
「なに?」
「千歳中々帰って来へんね」



どき。


「…そうだね」
「なあ優奈ちゃん、さみしくないん?」
「え…」
「あれだけ一緒におった人がいなくなったら、さみしいやろ?」
「…さあ、どうだろ。今親もいないから、さみいしっちゃさみしいけど」




千歳が熊本へ帰ってからもう一週間くらい経つ。向こうで何かしてるのだろうか…。まあそんなこと、私には関係ないのだけど。千歳がいなくたって、別に前の生活に戻るだけで。胸に感じる寂しさはおそらくお母さんたちがいないせいだ。


「さ、練習いこ」
「優奈ちゃん、前も言ったけど、気持ちを殺すようなこと、したらあかんよ」



小春ちゃんになんて返事したらいいのかわからなくて、私はそのままコートへ向かった。とにかく今日も頑張らなきゃ…
そういえば、私が無理したりすると、千歳は必ず私の変化に気づいてたなあなんて頭の隅で思った。



.


.



「おい、タオル」
「はいはいどーぞ」
「なんだよその気の抜けた態度は」
「暑いんだから静かにしてて」


跡部くんをあしらいながら私は仕事をこなし、何とか今日も1日乗り切った。部活後に渡邊先生がアイスを差し入れしてくれて、皆んなで頬張ってから帰ることになった。



「オサムちゃんも気がきくやん」
「やっぱ夏はアイスやなー!なーわいもう一本食ってもええか?」
「コラ金太郎!抜け駆けはあかんで!」
「謙也さん、うっさいっすわ。暑苦しいっす」
「なんやと財前!」


「…桜井、アイス溶けるで」
「…へ?」



一氏くんが声をかけてくれた頃にはもう遅く、ぼとっと私の足元にアイスが落ちてしまった。



「あ〜優奈もったいないでえ、いらんならわいにくれや」
「あ、ごめん…」
「どないしたんや桜井、ほんまに腹でも痛いんか」
「いや、考え事してただけ…」


雑巾で落ちたアイスを拭きながら、大丈夫大丈夫と言った。因みに跡部くんはこの差し入れのアイス(ガリガリ◯)がとても珍しかったらしく、まじまじと見つめながら食べていて少し面白かった。




「じゃあな優奈、明日忘れんなよ」
「はいはい…」



帰り道、しっかり跡部くんに念を押されてしまったが、すっぽかそうかなあとか最悪なことを考えていた。千歳がいないから今日も1人でこの道を歩かなくてはいけない。なんだか足が動かない…




「桜井!」
「白石…?」
「今日俺そっち方面に用事あんねん。途中までかえろや」



白石と二人で帰るのは初めてだった。なんとなく1人で帰りたくないなあと思っていたから、ちょうどよかった。



「…今日も暑かったなー、桜井熱中症になってないか?」
「大丈夫…」
「そうか。なんや今日ボーッとしとったし、しっかりしいや」
「うん…」
「……」
「……」
「なあ、普段千歳と何話すん?」
「え…別に…ご飯の話とか…テレビの話とか」
「へえ」
「………」
「………」
「…千歳、はよ帰ってくるとええな」
「……ん。」



それから白石と会話が盛り上がることもなく、私は家に着き、白石と別れた。白石…本当に用事なんてあったのかな、と少し思った。

家に帰ると、また1人だ。お母さんもお父さんもいなければ、千歳もいない。
なんだか余計なことばかり考えてしまって、自分が自分じゃないみたいだ。何も考えたくなくて、すぐさま布団へ潜り込み、頭からタオルケットを被った。私は半分やけになったのか、こうなったら明日の跡部との約束、とことん楽しんでやろうと思った。


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bkm
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