最悪な日
主人公視点

千歳が熊本に帰ってから数日。私の生活は部活へ行って帰って寝るの繰り返しだった。いつもは千歳と帰る帰り道も一人。千歳と行くスーパーも、一人。千歳と食べる夕飯も、全部一人で、正直やっぱり寂しかった。でもまあ慣れてくれば前の感覚が戻ってくるだろうとか思っていた。


一番困るのは、夕飯である。千歳もいない、お母さんもお父さんもいない。ごはんが、まずい…。一緒に食べる人がいないだけでここまで変わるのか。自分でも驚きである。だからなんとなく夕飯はあまりとりたくないなと思い、アイスを夕飯代わりにしたりと不摂生が続いてしまっていた。



「桜井、今日帰り道、ラーメンでも食わんか?」


ある日の部活後、唐突に白石にラーメン屋へ誘われた。あんまりお腹すいてないんだけどなあ…

「ラーメンかあ…」
「いこうや優奈ちゃん!たまにはええやろ〜〜」
「優奈ー!ラーメン食おー!」


こうして私は反強制的にラーメン屋へ連行されてしまった。今回のメンバーは、白石小春ちゃん一氏くんに謙也、財前くん。そして、補講から解放された遠山くんだ。遠山くんの分は白石のおごりらしい。どこまでも過保護である。



「……」
「謙也…なにしてるの」
「ヒッ、桜井…!?」
「…?」
「す、すまん、許してやー!」



謙也はそう叫びながらラーメン屋へ走って向かってしまった。なんなんだいったい。私なんかした…?



「何あれ」
「ほっとき、昨日から謙也のやつ様子がおかしいんや」
「へえ…」



ま、夏ですからね。そんなわけで私たちは学校近くのラーメン屋へ向かったのだけれど。ラーメンなんて何年ぶりだろう、何を食べたらいいのかわからない



「ははん、桜井、その様子やとラーメン屋初心者やな」
「一氏くん」
「ええか、初心者は醤油ラーメン餃子付きしか食うたらあかん決まりがあるんやで」
「え、そうなの?」
「コラ一氏、優奈ちゃんに何嘘教えてんねん」


ゴスっと小春ちゃんの肘打ちがヒットし苦しむ一氏くん。一瞬信じそうになっちゃった。



「わいはチャーシューとんこつラーメン大盛り餃子とごはんつきや!」
「げっ金ちゃん一番高いのやん」
「アタシは醤油!」
「ほな俺も」
「じゃあ、私も…」
「しゃーないな、ほな俺は塩や。謙也、おまえどーするんや」
「…………」
「謙也?」
「えっ、あー俺はとんこつにしよかな、あはは…」



注文すると謙也は携帯をいじりながらトイレへ向かっていった。



「なんやねんあいつ」
「謙也のやつほんまに様子がおかしいな」
「謙也さんがおかしいなんていつものことっスわ」
「あ、財前くん。どこ行ってたの?」
「トイレっス。俺塩ラーメン」



一通りみんな注文が終わったので席に着いた。謙也のトイレは長そうだ。まだ帰ってきていない。


「あ…優奈先輩」
「何?財前くん」
「……」
「……何?」


そんなに見られると困る



「なんでもないっすわ」
「なんだそれ」

変な財前くん。しばらくするとラーメンが来て、遠山くんのどんぶりは数分後には空っぽになっていた。すごい食べっぷりだ


「あ!謙也ー!ラーメンきとるで!」
「ケンヤー!ラーメンいらへんならわいにくれやー!」



トイレから戻った謙也は、なんだか顔が真っ青で。…お腹でも壊したのか?謙也に大丈夫?と声をかけようとしたそのとき、私は目を疑った




「よう、久しぶりだな優奈」
「…あ、跡部くん…」



私はかるく混乱に陥った。なんで跡部くんがここにいるの!?しかも後ろには忍足くんまで…!夢じゃないよね?いや、夢であって欲しいんだけど




「え、え、なんなのほんと」
「アーン?久々で照れてんのか?」
「いや、照れてないです」


私は隣にいた財前くんの後ろには隠れた。意味がわからない。なんなのこの状況



「…財前くん、さっき言いかけたのってもしかして」
「ああ、跡部さんと忍足さんがおったって言おうかと思いました」
「いや、言えよ」


鋭いツッコミを入れる私。だんだん関西人になりつつあるなあとか思いながら、私は冷静に状況を考えた。私は跡部くんにまともなメールも返してないはず…なぜここがわかった?



『夏休みの予定なんかあるか?』
『許してやー!』



そういえば、ここ最近の謙也のおかしな言動が思い出される。そして謙也は忍足くんのいとこ。忍足くんは跡部くんの部活仲間…



「謙也…私のこと売ったな!」
「うわあああちゃう、ちゃうねん、これには理由が」
「謙也さん最低っすわ」
「いややわひどい男」
「ケンヤ最悪」
「やめてやー!」



そうか。謙也が挙動不審だったのもよくわかった。でももう来ちゃったものは仕方ない。なんとかこの修羅場を乗り越えなければ。



「じゃ、私帰ります」
「優奈、部活の休みはいつだ?」
「あの…話聞いてます?」
「おまえの好きなところへ連れてってやる」
「あ、私家が一番好きなので」
「誘ってんのか?大胆だな」
「会話が支離滅裂すぎるんですが」


家には帰れないし、ラーメンはのびるし。もう最悪だ。ラーメンは遠山くんに引き取ってもらい、私は相変わらず財前くんの陰で水をちまちま飲んでいた。



「なあ二人とも、暇なら部活に参加せえへん?」
「部活…?」
「せっかくなんやし、一緒に練習しようや」
「ええなそれ。なあ跡部」
「フン、まあ暇つぶしにはなるか」



え、ちょ、何この話。部活に来るの?この2人!もう最悪な未来しか見えてこなかった。


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bkm
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