大丈夫
主人公視点

部活帰り、千歳とスーパーにでも寄って帰ろうとしてた時、千歳が小春ちゃんたちに引きずられて連れて行かれてしまった。あーもう、早く帰りたいのに…。


「桜井、おつかれさん!」
「謙也、おつかれ」
「…なあ桜井、自分夏休みの予定とか、あるんか?」
「は…?部活以外特にないけど」
「ほ、ほー。そうなんや。すまんなへんなこときいて」
「はあ…」


おおきに!と言うと謙也はものすごいスピードで帰っていった。いつにも増してへんな奴だ。するとピロロンと携帯が鳴った。


「げ」



わたしはメールを見た瞬間顔をしかめた。もちろん相手は跡部くんである。全国大会後、また跡部くんからメールが来るようなった。バカンスにいかないかとか、夏休みは何をしてるかとか、そんな内容ばかりなので、わたしは無視を決め込んでいた。こんな暑い時期に跡部くんにあうなんて、暑苦しくて無理である。

今回も無視を決め込みたかったが、最近全く返信していないので少し不憫に思い、「まあいろいろ」とこの上なく適当な返事を返しておいた。


「優奈」
「千歳。なんだったの?」
「ん、まー人生色々って話たい」
「なにそれ」


千歳まで変だ。みんな夏だから変になってるのかな、とか思いながら2人でスーパーに向かい、わたしの家に帰宅した。わたしの家のほうが広いしクーラーの効きもいいので、夕飯はうちでとっている。



「はーうまかー。やっぱ夏はそうめんにかぎるばい」
「千歳食べるの早い」
「優奈が遅いだけたい。だいたい麺は一本ずつ食べるもんじゃなかよ。」
「だって好きなんだもん…。」


あんまり大量に口に入れるのは好きじゃないので、わたしはラーメンなんかも二、三本くらいしかすすれない。お母さんにもよく行儀悪いと言われたが、仕方ないのである。


「素麺ゆでてもよか?」
「うん」
「優奈はもういらんとや」
「いらない」
「小食たいね」


千歳はいそいそとキッチンへ向かっていった。わたしと千歳じゃ食べる量が違いすぎる。特にわたしが小食なのではない、はず…。



ピロロン



げ、また跡部くんか?と思い携帯を見たが、私のじゃない。鳴ったのは机の上にあった千歳の携帯だった。千歳の携帯が鳴るなんて、めずらしいこともある。

ほんの好奇心で、携帯を覗いてみるとそこには「ミユキ」という名前が表示されていた。




女の子の、名前





「あれ…なんかまた動悸が、」


ドキドキドキ、胸がうるさい。本当になんだこれ。病気なんじゃないのか…。それにしても、ミユキって誰だろう。友達かな。普段クラスが離れすぎていたので、千歳のクラスでの様子なんて知る由もなかったが、女の子の友達くらい一人や二人いるよね…。




へんなの…、なんでこんなに気分が落ち込むんだろう…




「優奈?」
「あ…できた?素麺」
「ん。食べたかったらつついてよかよ」
「うん。…千歳、携帯鳴ってたよ」
「お、ありがとさん」



千歳は携帯を確認すると、「あ、そうやった」とかなんとか言っていた。そのミユキって子のメールになにが書かれているんだろうか。気になる。



「メール、誰から?お母さん?」



私はさも「女の子からのメールなの?」感を出さないように、お母さんから?と聞いてみた。うーん。私の会話のスキルもだいぶ上がったな。自分でも感心する。



「いや、ミユキからたい」
「ミユキって…」
「妹。ほれ、こないだの準決勝の時におった…」
「あ…あの小麦色の女の子…千歳の妹だったんだ」



千歳…顔が緩んでる…。もしかして妹さん大好きなのかな。



「ふ、」
「ん?なんば笑っとうと?」
「なんでもない。メール、なんて書いてあったの」
「ああ、それが…。」






「俺、熊本に帰るたい」






一瞬時が止まったかのような感覚に陥った。


「もうすぐお盆やけん、帰省せんといかんばい」
「あ…そっか」



その一言で私はふっと現実にかえった。そうか、お盆か。そうだよね。びっくりした…本当に熊本に戻っちゃうのかと思った。


「いつまで…?」
「んー、わからんばってん、もしかしたら長くなるかもしれんたい」
「そう…」
「すまん、優奈、一人に…」
「ああ、それは気にせず。なんだかんだ一人は慣れてるから」




千歳が申し訳なさそうにしていたので、私ははり付いたような笑顔で大丈夫といった。千歳がしばらくいなくなる。…べつに大丈夫だよね。少し前の生活に戻るだけだ。今年の四月までは現に千歳はいなかったんだし。大丈夫大丈夫。


次の日、千歳は荷物をまとめて熊本へ帰っていった。長い夏休みはここからが本番だ。


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