主人公視点
「…海外、出張…?」
いつものダイニングに、カレーを食べる私と母とそして千歳。今日の夕飯はお母さんのびっくり発言から始まった。
「そーなの!お父さんがね、夏の間だけ海外出張になったから、お母さんも行ってこようかなーって」
「へえー、海外。バカンス代わりになりそうばい」
「でしょでしょ、そうよね!」
「ちょ、わたしはどうなるの」
もしかして留守番?
「そうよ留守番よ」
「……」
「いいじゃない!どうせ千歳くんも近くにいるんだし」
「優奈なら心配いらんよ。俺がそばにおるたい」
「きゃ〜〜、ステキね〜」
「そういう問題じゃないんだけど」
ちょっと待てと言おうと思ったが、お母さんが妙に嬉しそうで言えなかった。最近お父さん残業続きでろくに構ってもらえてなかったから、今回の件は旅行気分なのだろう。仕方ないなあ
「1ヶ月くらいだし…ダメ?」
「そんなこといって…私に拒否権あるの?」
「う〜〜ん。ないかな」
どこかの漫画のようにがくっとなる私とケラケラ笑う千歳。それからカレーを食べ終わり、私は千歳を送るべく玄関に出た。
「優奈のお母さんはほんなこつおもしろかね〜」
「いつも大変だよ…」
「ま、毎日部活もあるし、そげんさみしか思いはせんばい」
「…そうだね」
千歳はごちそーさん、というと手を振りながら帰っていった。…そうだよね、部活があるから毎日千歳や白石たちと会うわけだし、さみしくなんかないよね。
千歳の後ろ姿を眺めながらぼんやり思っていると、もじゃもじゃ頭がくるりとこちらを振り返った。
「…何?」
「そげん見つめられっと帰りにくか」
「…!べ、別に見つめてなんか…」
「俺が心配だけん、優奈も家入るたい」
「心配するもなにも…ここ玄関だよ」
「いーから」
「……じゃあ、おやすみ」
笑顔の千歳に小さくバイバイと手を振り家の中へ入った。変な千歳。
「千歳くん帰った?」
「うん」
「ごめんねえ優奈、急な話で」
「別に」
「夜ご飯なんかは、千歳くんと食べなさいよ。一人で食べるよりずっとマシよ」
…それで、千歳がいるところで海外行きを公表したのだろうか?お母さんも一応私のこと考えてくれてたのか。それから数日後、お母さんとお父さんは海外出張へ飛び立っていった。お母さんはまるっきり観光者のような風貌だったけどそこは気にせずに見送った。
「さて…これから一人か」
まあ、何とかなるよね。大丈夫。