君の瞳に恋してる
主人公視点

「お世話になりました」


今日は退院の日。病院の玄関口でお世話になった先生たちにお礼を言い、病院をあとにする。でかい病院だ。これがあの忍足家の大元か…忍足君はともかく謙也にこの病院が継げるのだろうか。謙也って頭よかったっけ…と大変失礼なことを考えながら家までの道を歩いた。


暑い。8月の後半にはいったとはいえ、ものすご暑さだ。コンクリートから照り返される熱にまたやられそうだった。帰り際に看護師さんからもらった帽子をかぶっていてよかったと思った。




ポタリ、汗が垂れる




「…家まで…もう少し…」



だんだんと足が前に進まなくなっている。帰りたくないからだろう。しばらくして、静かな住宅街の道のど真ん中で立ち止まり、うなだれていると、携帯が鳴った。まさか、千歳から?と期待を込めでカバンから携帯を取り出したが、そこには千歳の名前でなく、跡部くんの名前が表示されていた。




「はい」
『忍足から聞いたぜ。退院したんだってな』
「…情報早いね」
『当たり前だろ。俺様を誰だと思ってるんだ?』
「はあ、」
『俺様からの見舞いの花は届いたか?』
「あ、あのバラの花束。届いたよ」
『そんなに長くはもたねえからな、バラ風呂にしてつかうのがおすすめだぜ』
「え、あ、うん」



全部ちぎってしまったとは口が裂けても言えない




「…跡部くん…色々ありがとうね」
『やけに素直じゃねえか。…好きなやつとはうまくいってんのか』



好きなやつって…千歳のことだよね。そういえば跡部くんは私がだれを好きなのか知らないんだった



「…や、ちょっと連絡が取れてなくって、まだ…」
『…………何だそれ』
「え?」
『もうあれから何日たったと思ってんだ』
「あの、跡部くん」
『いいか、てめえはこの俺様をフって、そいつを選んだんだろ。だったら早く思いでもなんでも告げて進展させろ』
「…そんな無茶な、」
『無茶じゃねえ、人の気持ちを無下にすんな』




電話の向こうからブチっと切る音が聞こえた。…跡部くん、怒らせてしまった…。当たり前だ、私跡部くんの気持ちなにも考えてない…。

千歳にだって、連絡しようと思えばすぐできるのに、怖くて逃げてるだけだ





「…ああもう…」




だめだだめだ。とにかくさっさと家に帰ろう。それで、千歳に電話だ!そのあと跡部くんにごめんね電話をして、ちょうど皆の部活が終わったころだろうから学校に行こう。それで、それで…




「…ついちゃった」




いつのまにか家についてしまっていた。…鍵を取り出してドアにさそうとしたが、なかなかドアを開ける気になれない。またあのガランとした部屋が待ってるのだと思うと嫌で仕方なかった。なんだか無性に千歳に会いたくなって、無意識に携帯へと手が伸びた



ピ、ピ、



携帯の連絡先を開き、千歳を選択すると、発信音が聞こえた。


千歳、電話でるかな












『…もしもし?』







…ああ、千歳の声だ。ほんの10日しか離れてなかったのに、その声がとても懐かしく感じてしまう。




「…千歳」
『驚いたばい、まさか優奈から電話がくると思んとらんかった』
「…えっと、…あ、暑いね。大阪は、毎日真夏日で…」
『熊本も暑かよ。まあ、大阪には負けるたい』
「…ひ、ヒートアイランドだね」



私、さっきから何話してるんだろう。こんな話するために電話したわけじゃないのに




「…えっと、あのね」
『…優奈、なんかあったとや?』
「え…なんで…?」
『いつもと様子が違うたい』




千歳はすごい。いつも私のことわかっちゃうんだ。それがとても嬉しくて、居心地がよくて、胸が暖かくなって、この感情が好きって気持ちなんだ。




ちゃんと言わなくちゃ、



自分の気持ちを








「…千歳に会いたい…」





そう言った途端思わず涙があふれてしまった。やっと言えた嬉しさと、さみしくて泣いてるだなんて知られたくない思いから必死で嗚咽を押し殺した。しかし、電話越しから千歳の反応がない。…まさか…引かれた…?








「…優奈、それほんなこつ?」






リアルな千歳の声に、思わず振り返ると、そこには大阪にはいないはずの千歳がいた。
え、なんで?なんでここにいるの…?




「…なんでいるの…?」
「丁度さっき大阪についたとこやったけん、したら優奈から電話ばかかってきて驚いたたい」


千歳はのしのしと私のほうへ近づいてきて、ハンカチで私の顔をごしごしふいた



「…ははっ、ひどい顔ばい」
「……笑うな、」
「笑っとらんたい。…俺に会えなくて、さみしかったと?」
「…………」



ちがう、と悪態をつきたかったが、こんな顔して言っても今更なので、素直にコクンとうなずいた。すると千歳はすこし驚いた顔をしていた。





「…ずっと会いたかった」
「ん」
「…連絡くるの、待ってた」
「俺も、優奈から連絡来るの待っとった」
「……あのね、千歳」
「ん?」
「…だいすき…」
「…ん。俺も。」





ぎゅうっと千歳にだきしめると、彼の匂いでいっぱいになって、また胸が暖かくなった。


笑ったり、泣いたり、怒ったり、さみしかったり、切なかったり。私の初めてをくれたのは、全部千歳だ。





彼が、わたしの初めてのすきなひと。






君の瞳に恋してる


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