鳴らない電話
主人公視点

「桜井さん、お見舞いのお花が届きましたよ」

千歳がいなくなって10日、私が入院して3日。看護師さんが持ってきたのは私宛に届いたというバラの花束だった。それを見ただけでなんとなく、差出人はわかる。花束についていたカードを見ると案の定跡部くんからだった


「……悪趣味な…」
「桜井さん、モテるのね〜。こんな花束もらえるなんて素敵ね」
「はあ…」


おそらくこの看護師さんが想像している花束の差出人は白石である。過保護な部長だから、白石は毎日私の様子を見にきていたので、すっかり病院の人たちに「桜井さんの彼氏」と思われてしまっているようである。看護師さんの中には頬を染めて白石を見つめる人もいる。モテる男はつらいね


「桜井」
「……白石」

噂をすれば何とやらだ



「よっ。調子どうや」
「……普通」
「なんやねん普通て」
「食欲はないけど、無理やり食べさせられてる」
「はは、そりゃええことやな」



白石は私の手元のバラの花束に気がつくと、「けったいな花やな」とこぼした。



「それじゃ俺、先生と話ししてくるわ」
「あ……いろいろごめん」
「ええって。これも部長の仕事や」



そう言うと、白石は病室を出て私の主治医の元へ行ってしまった。今回の件で問題だったのは私の保護者が現在不在だったことだ。海外まで連絡しようかともなったが、せっかく夫婦水いらずなところに迷惑をかけたくなく、私の希望で親に連絡はしなかった。そして保護者代わりをしてくれたのが白石だった。


「……千歳…遅いな」



ぽろりと口から出た言葉。もうこの独り言を何回言っただろうか。あれから千歳から何の音沙汰もなく、入院の日々が過ぎて行っていた。自分からもなんとなく連絡できずにもどかしい時間が続いていたのだ。



「……くる、こない、くる、こない…」




跡部くんにもらったバラをむしりながら花占いとかしてみる。私、いつからこんな乙女な感じになっちゃったんだ…しかも占い結果、こないだし。最悪だ



「わ、なにしてんねん」
「白石」
「ほら、布団汚れるで」




先生のところから帰ってきた白石がちぎられまくったバラを見てギョッとしていた。ていうか、話しもう終わったの?



「先生、なんて?」
「ああ、もう明日には退院できるみたいやで!よかったなあ」
「え……」


一瞬、あの誰もいない家や、一人の帰り道が脳裏によぎった。…またあんな日々くるのか。素直に喜べない…



「……桜井?」
「……」
「…大丈夫や、さみしいんやったら俺らが遊びに行ったる」
「…白石…」
「せやから、安心し。千歳やってそろそろ帰ってくるやろ」




白石の言葉に一瞬安心はしたけれど、やはり帰りたくない気持ちが強い。

白石が帰った後、私は現実逃避するかのように爆睡し、あっという間に次の日になってしまった。ほんの僅かな荷造りをして、主治医や看護師さんにお礼を言って病院を後にする。白石たちは今は部活中だから、家には一人で帰らなくてはいけない。千歳からの連絡はやはり来ないままだった。


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bkm
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