千歳視点
熊本に帰ってきてから一週間がたった。久々に家族に会って、友達にも会って、色々してたらあっという間に一週間たってしまった。
「やっぱ、こっちの空気はよかね、大阪と違ってよく澄んでるばい」
「ああ。俺もすっかり東京の空気になれとったたい」
よく歩いた河原を、今日も桔平と歩いてる。桔平もこの盆にじいちゃんちに遊びに来ていたらしい。桔平とゆるい会話を交わしながら、俺はポケットの中の携帯に目をやった。相変わらず俺の携帯は滅多に鳴らない。
「………」
「…千歳?」
「ん?なんね」
「…めずらしかね。千歳が携帯ば気にしちょるなんて」
少しだけギクリとし、俺は携帯をポケットにしまった
「誰かからの連絡でも待ってるとや」
「別になんでもなかよ」
「…四天宝寺のマネージャーか?」
「なして優奈がでてくると?」
「いや、なんとなく…ばってんあのマネージャー、お前の好みによう当てはまっちょるなー思っとったばい」
「…は、さすが桔平ばい」
まさかずっと前から気づいていたのだろうか
「言っとくけん、優奈目当てで大阪いったわけじゃなかよ」
「はは、そげんこつわかっとーよ」
「優奈とは結構仲良くなったばってん、一週間離れとっても連絡の一つもこんたい」
「そげん時は、こっちから連絡ばするとよ」
「桔平は大人やね」
一週間も離れていれば、そろそろいつ帰ってくるのか程度のメールが来ると読んでいたのだが。相手はあの優奈だ。予想外の行動に出る可能性もある。
「…一人暮らしば満喫しちょるかもしれんたい」
「ほお、すごか女ばい」
何事もある程度は先読みできるが優奈はそうはいかない。大体さみしいのは俺の方だ、できることなら今すぐ電話したいけど、あの無表情な顔で「なんか用」とか言われたら立ち直れない…
「はー、センチメンタルたい」
「千歳らしくなかね。向こうにはいつ帰ると?」
「んー、いつでもよかけん、もうすぐミユキの誕生日やし、それまではこっちに居ろうかなと」
「ああ、杏がプレゼントば用意しとったばい」
会いたいけど、少し怖い。
こんな女々しい気持ちになったの初めてだ
声、聞きたい
あの独特な笑顔が見たい
心地よい空気に触れたい
「はー、…さみしか」